猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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男だか女だか
先週の金曜日、会社を出ようとするとアメリカ人の同僚が近づいてくる。
今日は残業をしたくない気分だから、飲みに付き合えという。

もう帰りたいから行きたくない、という私に、実はいろいろ溜まっているから
聞いてくれないかと言う。このアメリカ人は、先日私を泉ピン子呼ばわりした
キャシーベイツとは違う人物。日本人妻と子役モデルをするハーフの子供がいる
若いパパだ。白人としては小柄ながら、なかなかのハンサム。有名なボディ
ビルダージムでエクスサイズにも余念がない。

外国人の同僚の中で一番付き合いが長い彼のたっての頼みとあれば、無碍に
断ることもできない。

会社に近いパブスタイルのバーに行く。カウンターに通されると、フィッシュ
アンドチップスを頼む彼。これを肴に、ベルギーのビールを何本も飲むのが彼の
スタイルだ。

お酒が一切飲めない私にとって、ビールの味のウンチクを語られても何も
わからない。彼のお気に入りのビールは、コリアンダーが入ったヒューガルデン
ホワイトというビールで、これをボトルで飲んでいる。何でもとてもスッキリして
美味しいのだそう。

酒の肴のフィッシュアンドチップスはなかなか量が多く、白身魚もジャガイモも
油で揚げてあるため、お酒が進むにつれてトイレに行く回数が増える彼。油ものが
お腹に合わないのならなんでいつもこれを頼むのだろう。

「Because its first bite is extremely delicious 一口目がとっても美味しくて」

だからやめられない、と言ってはトイレに駆け込んでいる。

お酒が進むにつれて会話はどんどん英語になっていくことは仕方がないが、
話題については社内の噂話が多く、これにお腹いっぱいになって二人で店を出た。

帰りがけ電車に乗り込むと、ちょうど二人分空いていた席に腰を下ろす。座るやいなや、
また土曜日が休日出勤になった、などと嘆いている。その時、突然英語になり、「向かい側に
座る人は女だと思う?」と聞いてきた。

斜め向かいに座るのは中年の女性。膝上20センチのミニのワンピースを来た
彼女は、足の間に大きなキャリーケースを挟んで電話をかけている。年の頃は
50才ぐらい。大股開きのせいで、スカートはますますずり上がっていく。ただ、
私の目には男ではなく、少しだらしのない中年女性に見えた。

しかし、彼は絶対に男だといって引かない。彼が日本で見た目の性別にこだわる
ようになったのには訳がある。以前、2月のブログ「性同一性障害」で書いたように、
私の職場には入社時から徐々に時間をかけて性別を変えた人物がいた。この人物が
心身ともに女へのメタモルフォーゼを完了した時期に入社してきた彼は、当初、
この彼女(彼)をいたく気に入っていた。

「ねえ、ウォーリックさん。◯◯ちゃんは背が高くてモデルみたい」

と、鼻の下をのばしている。「当たり前じゃない、ついこの前まで男だもの」と
思いながらも、彼女が今女性として生きている限り、私の口からは何も言わない
と心に決めていた。

その日のうちに彼女がかつて男だったことを職場のおしゃべりおばさんから聞き
つけ、私を問いつめる彼。

「どうして知っているのに教えてくれなかった?危うく声をかけるところだった」

などと逆切れしている。

「それほど気にいったのならなぜ声をかけないの」

と、問い返す私。サンフランシスコで大学時代を過ごした割にはこの手のことに
免疫のない彼に、逆に私が驚いた。ご存じの通り、サンフランシスコはアメリカの
ゲイキャピタル。街にはハードゲイからトランスヴェスタイト、トランスジェンダーから
普通のゲイまで一通り住んでいる。ここにトランスセクシャルの一人や二人いたところ
で、何をそんなに驚くことがあろう。

「だってここは日本の普通の会社だから」

と言う。確かに日々少しずつ性別が変容していく同僚を目にする機会はなかなか
ないとはいえ、日本でも増えてきているのは事実。ただ、彼にとってはこれが
ひどいトラウマになったらしく、ちょっと可愛い女の子を見つけると、すぐに私に
性別確認をするようになった。本当に油断できない、などと言っている。

「やっぱり僕は男だと思う。アルソックのレスリング選手と同じ顔をしている」

ふと気づくと、彼はまだ先ほどの女性の性別を疑っているらしかった。彼は、常々
レスリングの吉田沙保里選手が男だといってきかない。CMで天井に張り付いて目から
ビームを発射する彼女が怖くて仕方ないという。いくら私が、金メダルを3個もとった
無敵のレスラーで国民栄誉賞ももらったスーパーウーマンだといっても、いや、
きっと男に違いないと言い張る。本当に失礼な話だ。

そう言われて改めて斜め向かいの女性を見ると、確かに顔は吉田沙保里。髪もスト
レートの真ん中分けだ。あまりに似ていたのでちょっと見つめていると、股を開い
て右手で内股をボリボリと掻き始めたので、私も少し疑い始める。

ほらね、と言わんばかりの彼に笑いをおさえていると、次の駅でキャリーケースを
引きずりながらドタバタと下りて行った。あまりに股を広げ過ぎたため、その後ろ
姿はミニスカートの片側がめくれ上がって降りてこない状態に。自らが半ケツに
なっていることに気づかぬままゴロゴロと音を立てて駅のホームをねり歩いて行く。

同僚はスマホに目を落とし、このとどめの一撃を目にすることはなかった。



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