猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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港にて
今、私の目の前50センチには海が広がっている。
私は今、港のベンチに座ってこの文章を書いている。

いつもと同じ土曜日を過ごして最寄りの駅に降りたつと、街中が海の香りに
包まれたいた。

今日は風が強い。

夕暮れ時の一番美しい時間。
日没に間に合えば、と思って、海まで夕陽を見に行くことにした。
昆虫が苦手、トイレのないところは嫌だなどといいつつ、こうして都合のいい時だけ
自然に助けを求める。私は、本当に身勝手だ。

綺麗に整備された港のプロムナードには等間隔にランプがともり、
なぜかカップルの姿もない。

夕陽の大空を飛行機が横切り、そして、急行列車の遠鳴りが沈黙を破る。
今日は風が強い。

風が吹いている。

目の前に波打つ海面にランプの灯が揺れ、街全体が磯の香りにつつまれている。

太陽は沈んだ。でもまだ大丈夫。その力の残像が私に猶予をくれている間に、
心にたまった辛いことたちを海に持っていてもらおう。

風が吹いている。

すると、うしろ足にギブスと車輪をつけたミニチュアダックスが目の前を横切った。
何だかとても嬉しそうに海辺を歩いている。

数歩先を行くご主人に追いつくために、一生懸命歩いている。
きっとご主人に作ってもらったと思われる赤と白の大きな車輪をつけて、誇らしげに
歩いている。息を切らしながら、でも胸を張って歩いている。

うしろ足は車輪の上でピクリともしない。なのに何であんなに嬉しいのだろう。



今日私は海を見にきて、この小さな命を見つけた。

「あなたは生きているだけで、そして、大好きなご主人とお散歩ができるだけで
幸せなのね?」

「そう、この車輪がついていれば、どこにでも行けるよ。ちょっと人より時間がかかるだけ。
でもちゃんと歩いていける。あなたは自分の足があるのに、どうして自分で歩こうと
しないの?」

そう言っている。

今日私が海に来た理由は、何か許せないことがあったから。ここにくれば何とかなると
思っていた。「許す」って、なんて傲慢な言葉だろう。

「大丈夫だよ」

プロムナードのレンガにつまづきながら、振り向きざまに車輪の犬が言う。

「きっと大丈夫…」

風が吹いている、風が、吹いている…



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