猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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セレナーデ
早めに会社を出ると、日没が遠のいていることに驚く。

夕暮れの街を駆け抜けて、発車間際の電車に滑り込んだ。車窓から見える外の景色は薄紅に
染まり、初夏とも梅雨ともつかぬ独特の季節感を醸し出す。

私の家に向けて車両が動き始め、心もとない高架橋の上をひた走る。

ほんの数十秒視界が開け、線路の両側に海が広がる。それはあたかも海の上を電車が
滑るように。

背景には都会の高層マンションが林立し、輝くメタルグレーのクリスタル。
海面に群れ飛ぶ夕暮れの魚影、ネオンを反射しながら車両は加速を続け、カンパネルラ
と共に星の海を駆け抜ける爽快感。

荘厳な大自然の美しさは、地球の愛情を放射する太陽の煌めき。
そして都会の風景は、硬質で無機質な夜を映し出す月の輝き。この街は、月と太陽が
織りなすエクリプス。

夜歩く。
私を乗せて、新月の京浜工業地帯を走る、満月の京葉工業地帯を走る。

単色のライトに照らし出された、夜の工場の装い。仄暗く誘蛾灯のように浮かび上がる
未来都市。規則正しく幾何学を描く構造物の間を縫うように、天高く螺旋階段が
のびる。それはブリューゲルのバベルの塔、儚げで横暴な風格を誇示ながら、
工場は今日も生きている。

冷たく輝くシルバーメタリックの世界に、凛凛と心躍る瞬間。

何度も重ねた夜のドライブ。

つい最近「工場萌え」という言葉を知るまで、こんな美意識は私だけが持つ奇矯な性癖
とひた隠し、誰にも話すことがなかった。

人工的な埋立地に広がる溶鉱炉のシルエットは、海に浮かぶモンサンミッシェル。
そんな眩惑の一時は誰にも譲れない。

電車は夜のとばりを、走る走る。

夕暮れから夜にかけての私的なときめき。

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