猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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後ろから前から
本日は例の宴会日だった。宴会幹事を無事終えた私は、二次会に出ることもなく
家路についた。

宴会自体はこともなくスムーズに運んだ。それはそれで幹事としてはよかったと
思う。にもかかわらず、この疲労感は何なのだろう。重い足を引きずりながら駅への
道すがら、今日の宴会風景を思い返す。

いよいよ宴会開始。会場の席は決まっていない。店の内装はちょっとクラシックな
イタリアの田舎風テイストで、おとしたライトの光が柔らかな温かみを演出している。
しかし禁煙席と喫煙席は全面ガラス張りの壁で仕切られていて、そこだけモダンな
雰囲気を醸し出す不思議な空間。

お店の外にはゲストの案内役として、子分のフランス人の同僚を店の外に張り
付かせ、私は店内でスタンバイした。

私の席は、幹事席。お店の人との打ち合わせや、お会計等、実務の取り仕切りに
便利な端っこの貧乏コーナー。さらにこのテーブルには司会役の部長と、本日の
出席者で一番偉い人。そして、どのテーブルからも弾き飛ばされた変わり者が集まり、
一種異様な雰囲気を醸し出す。昔見た「ドクターモローの島」。動物実験で、人間と
動物を掛け合わせた化け物の住む島の物語を思い出す。一切の色味を欠いた地味な
この一角は、ほんのりと加齢臭に包まれて、これから展開する2時間の行く末を
容易に想像できるセッティングになっていた。

姥捨て状態の私のテーブルを遠巻きに見つめる同僚たちの目。そこには、憐憫の情と
ともに、私の境遇を少しだけ楽しんでいるビッチな一瞥も見て取れた。

「あの、おしぼりとつまようじはありませんのでご了承ください」

あらかじめ防御線を張っておく。次々と運ばれる大皿に盛られた料理を小皿にとり
わけ、ビールをつぎまくる。こんなことは一切苦ではない。いくらでもついで差し
上げようではないか。

私がつらいのは、その場を凍り付かせるおやじギャグ。偶然にもこのテーブルには
各部からオヤジギャグの大家が集い、先を競って言い放っている。そして、それを
聞いてあげる人が、残念ながらこのテーブルにはいなかった。 

「本当は焼き肉食べたかったな、焼き肉じゅうじゅう」
「むくはとじゅう」
「ずうとるびの山田君一枚」
「・・・・」

まれにみるクオリティの低さだ。さらに、酔っ払いオヤジ特有の自己中モードが
炸裂し、もはや全員が同時にバラバラのギャグを連発し始め、誰も聞いちゃいない。
いつもは作り笑いで相槌をうってくれるおばさんや、うぶな新入OLの代わりに今日、
隣に座っているのはこの私である。それがいたく不満らしいのだ。

そんな気持ちはこちらも察知する。「お互い様じゃっ!」半ば投げやりに岡っ引き
みたいになった私の目から、またあの威嚇ビームが発射されていたらしい。そんな
私を和ませようとしたのか、一人のオヤジが甘えた声で私に言う。

「ねえねえ、むくはとじゅう」

「・・・・・・」

まだ言っている。私に一体何を期待しているのだろう。まさか、焼き肉じゅうじゅう?
もはや疲労で怒りの限界に達していた私に向かって、別のオヤジがたたみかける。

「いつ言うの」

すると残りのオヤジが一斉に、

「今でしょっ!」

オヤジたちの大爆笑を横目に、遠い目をする私を俯瞰する自分がいた。きっと
十勝花子みたいな顔になっていたと思う。楽しそうに笑う彼方のテーブルでは、いつも
のイケメン狙いのおばさんが、今日も別の男の子にしなだれかかっている。

会は無事終了し、店の出口で皆の忘れ物をチェックしていると、溶けたように酔っぱらっ
たオヤジたちは、すでに別の生き物に見えた。私の手をとり、二次会に行こうという。
このまま拉致されたら、きっとまたデュエットで「カナダからの手紙」とか歌わされて、
その後、オヤジの歌う「後ろから前から」を聞かされるのだ。この流れは決まっている。

清純派アイドルとして、恩師平尾昌晃氏とデュエットでデビューした畑中葉子は、
その後、あっという間にポルノ女優になってしまった。そのポルノ映画へのタイアップ
挿入歌が「後ろから前から」。ちなみに第二弾は「もっと動いて」。

清純派がポルノ女優という顛末が、オヤジたちにはいたくショックだったらしく、カラ
オケにいくと決まってデュエットをさせられる。でも、さすがにソロになってからの
日活ロマンポルノ挿入歌は私でも歌えない。

オヤジに囲まれ、マイムマイム攻撃をうける私の窮地を救ったのは外人の同僚たち。
オヤジはなぜか外人に弱かった。嵐のようにやってきて私の手をとると、そのまま
店の外に連れ出してくれた。持つべきものは友である。これで今夜の畑中葉子はなく
なった。

同僚たちとの二次会も断り、先ほど家にたどり着いた。今日は自分へのご褒美に、
これから夜中のケーキを解禁することにした。おやすみなさい。

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聞く(いや、読む)も涙...
また、寄せていただきました。
が、かける言葉もございません。ウォーリック様のこれからのご多幸を願うばかりです。
でも最悪の事態は回避できてよかったですね。
幹事、本当にご苦労様でした。
電脳高架橋 | URL | 2013/06/01/Sat 07:31 [編集]
Re: 聞く(いや、読む)も涙...
電脳高架橋様:コメントありがとうございます!でも実際何か楽しかったです。おじさま方も「椋鳩十」以外はとても気のいい人たちばかりで、ねぎらいの言葉までかけていただきました。また遊びに来てください!
ウォーリック | URL | 2013/06/01/Sat 10:22 [編集]
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