猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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常磐線にて
その日、私は常磐線に乗ろうとしていた。

オールナイトでドライブに行く予定で、茨城の友人宅を目指す。週末の終電は蒸し暑く、
少しでも空いている車両を見つけようと必死になっていた。

比較的空いている車両を見つけると、車内を見渡し酔っ払いと危険人物がいないことを確かめる。
そっとドア近くに立つと、目の前に背の高いロマンスグレーの紳士が、ドア脇の三角コーナー
に立っていた。仕立てのよいスーツにバーバリーのバッグ。日本人離れした堀の深い
顔立ちで、ちょっと見、イタリアのちょい悪おやじ風味。

といあえず怪しげな感じはしなかったので、その彼のななめ前に空いていたスペースに紛れ
込んだ。しばらくするとなにやら匂う。

「イカくさい」

周囲を見回したもののイカの気配はない。しばらくすると、今度はせんべいの匂いがする。
一体、誰だろうとアンテナを張り巡らすと、灯台下暗し。何やらこの紳士の挙動が怪しい。
左手には、バッグとおそろいのバーバリーのハンカチ。そのハンカチの中に何かを巻いている。
そして、今度はおもむろに右手をポケットにいれると、何かをつかんでそのまま口に
いれた。

「イカだ!」

紳士の口ひげからイカ燻のゲソがはみ出している。そして右手のハンカチを口にあてると、
ズズズと何かをすすった。ワンカップかチューハイ、とにかくアルコールの匂いがする。
次にまたポケットに手を入れると、今度はせんべいの匂い。

「柿ピー?」

まさかあの素敵なスーツのポケットの中には、イカや柿ピーがそのままチャンポンか。
すると紳士は、イカを触った指をねっとりと口に含むや、次の瞬間、ジョポッと外に出す。
その指を自分のスーツになすりつけて、大きなゲップをした。ここで飲み物はビールと判明。
ゲップは私の顔を直撃し、倒れそうになる。思わず背を向け、反対側を向いた。

するとそこには、女の子が立っていた。身長は1メートル50センチほど。実際のところ何歳
かわからない。無地の緑のスカートに白いソックスをはいている。そこはかとない違和感
を感じた私は、その原因を追究すべく、視線の端で観察を始めた。

まず、まばたきを一切しない。口が常時半開き。ファンデーションの色があっていない。
舞台女優の砥の粉化粧というか、顔立ちも含め、まるで小梅太夫のようだった。

何か危険信号を発していた彼女におののいた私は、そのままゆっくりと横に移動した。

すると、彼女と紳士を隔てていた私という障害がなくなったことで、彼女の欲望に火がつい
てしまった。

「うぅぅぅ」

何か言っている。そして、おもむろに右手を前に差し出すと、手のひらを丸めてひしゃくの
ような形にし、そこで何かをつかもうという態勢。徐々に顎を引き、紳士を見つめる目に
いよいよ熱がこもる。電波ゆんゆんで徒競走のスタート姿勢になった彼女は、ものすごい
雄叫びとともにラッパ水仙発射。

1メートルと離れていない紳士に向かって体当たりをすると、左右の肩を交互に前後しな
がら、紳士を三角コーナーに追い込む。グリグリと体を押しつけながら、おそらく私が
それまでの人生で聞いたことのないような声をあげながら、突進を続けている。そして、
私は見た。彼女の右手が紳士の下半身をまさぐっているのを。

あのひしゃくの意味が、ここでようやく判明した。

一方の紳士は、驚きのあまり手にもっていたビールを床に落とす。女の子の髪を濡らし、
床に転がった缶からシュワーッと白い泡がたつ。ビールで濡れた女の子が驚き、そのまま
ホームに飛び出すと、絶叫とともにホームの彼方へと走り去って行った。

そして発車のベルがなる。先ほどの騒動でこぼれたビールを囲み、混雑した車内に空間
ができていた。まさにドアが閉まる瞬間、今度は、そこにヒールをはいたミニスカート
の女の子が飛び込んできた。終電に間に合おうと必死に駆け込んで来たのだ。

電車に飛び乗るやいなや、紳士がこぼしたビールに足をとられた彼女は、両足をV字に
開いたまま、後ろにすっ転んでしまう。無防備にもスカートの中身は全開し、あられも
ないその姿は、まさに犬神スケキヨ状態。

電車の中は、2~3分のうちに起こった惨劇の展開の速さについていけず、誰も
何も言わない。OLのお姉さんとおばさんが女性を起こすと、彼女の長い黒髪が張り
付いて、今度は貞子状態に。本当にお気の毒と思いきや、この彼女が歯茎を丸出しに
して笑っている。転んだ時の照れ笑いなのかと同情したが、豪快な爆笑なのだ。
どうやら生まれながらのジャイ子気質らしく、野太い声で「大丈夫です、ガハハ」と
快哉を叫んでいる。

これは常磐線で起きた事実。そして、私はこれまでに何度も友人に話してきたものの、
「雨と傘袋」で書いた時同様、誰一人として信じてくれなかった。以来、私は出会った
驚きを写メに記録するよう習慣づける。今、私のデータフォルダには、電波女がリー
マンのスーツに浴びせかけたジュクジュクトマトの破片や、九十九里の浜辺に大量投棄
されていた使用済みのイチジクかんちょうなど、ありとあらゆる阿鼻叫喚が詰まって
いる。

また、機会を改めてご紹介しますね。


後記:横溝ファンの私としては、
一つ断りをいれておくと、湖でV字開脚をしていたのは犬神佐清(スケキヨ)ではなく、
彼になりすました青沼静馬の死体です。


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