猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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ザギハの話
ザギハというのは同級生だった女の子のあだ名。彼女との出会いは
その後の私の「阿鼻叫喚」人生に大きな影響を残したので、是非ここで
紹介したいと思う。

私の小学校の卒業アルバムを見ていた伯母の手がふと止まり一言、

「あら、この人....」

一人ひとりがそれぞれの表情で小さなフレームに収まった写真。その中で
ひときは人目を引く容姿。大きな顔を取り囲むクセ毛が顔の輪郭に張り付き、
百獣の王ライオンを思わせる。北の湖親方に似ていた。固定された椅子に
座って撮影したから、皆、カメラまでの距離は同じはずだった。でもザギハの顔は
フレームにいっぱいいっぱい。カメラを見据えるその小さな瞳は、見る者に
ガンを飛ばしていた。

彼女と私が話をするようになったのは小学4年生の頃。彼女はすでに学年女子の中
でも縦横問わず一番の巨漢。そんな彼女を、私はひそかに恐れていた。
その日は保健委員会の集まりで、委員の私とザギハは体育館に向かっていた。保健室に
急病人がいて使えなかったのだ。他のクラスの保健委員を待つ間、ザギハが初めて
話しかけてきた。

「おめーよ、ブラスリップって知ってっか?」

とても小学4年女児の言葉とは思えない口調は、この年にしてすでに飯場の土方おやじ
の風格。怯えながら知らない、と答える私にドヤ顔をしながら、

「ホレよ」

そういうと着ていた体操着を胸までたくし上げて、ブラスリップをみせてくれた。
縄跳びをするときは必ずこれを着ないと胸が痛いということ、そして、それは大人の
女性の証拠なのだ、と上から目線で話す。当時の私には何の興味もないブラスリップ。
それに感動しない私の態度が気に入らなかったらしく、思いっきり
太ももをつねられた。
水曜日の「ようぎけんさ」でザギハの爪が汚いと先生に言いつけたマキちゃんは、
この後、放課後にヤキを入れられることになる。ザギハはバイオレントで
いつも見えない敵と闘っていた。
そうこうするうち、委員会の最中にそわそわし始めたザギハは、
いつも紫色のほっぺをさらに紫色にして私に耳打ちしてきた。

「おい、ケツ割れた」

エエーッ、お尻はもともと割れているのよ、と、今度はこちらが
上から目線で言ってやろうとザギハを見ると、床に体育座りをする
体操着のお尻から本当に血が出ていた。胸がドキドキする。気が動転した
10歳の私は先生のところに飛んでいき、

「先生、○○子ちゃんのお尻が割れました!」

と報告。涙目でうろたえる私を横目に、当のザギハはうさん臭そうに汚れた爪を
みている。保健室までザギハを連れて行くように言われた私は、養護の先生がザギハ
にお赤飯の話をしているのを遠い目をして聞いていた。

その後、危機を救った私に勝手な親近感をもったザギハは、何かにつけて私に
まとわりついては、おぞましい話の数々を言い放った。夕方、公園のブランコに
のっていたら、高校生に交際してくれと迫られた話では、交際の意味が分からない
私を置いてきぼりにして、なまめかしい目で顛末をまくしたてる。その後、強引に
押し切られた彼女が、仕方なく高校生と土管のトンネル遊具の中に一緒に入った
ところまでは聞いていたような気がする。

今考えると本当に恐ろしい。

体育館でお尻が割れた後も、検便容器を落として中身をぶちまけたり、予防接種の
熱をはかる体温計を口から飛ばして床に水銀の玉を散らばせたり、ギョウチュウ検査
ポキールをむき出しで先生に渡したり、遠足のバスで大量のゲロを消防車の放水の
ように隣の子に吹きかけたりと、ここぞというイベントで期待を裏切ることは
なかった。

持ち上がりでずっとクラスメートの私は、そんな彼女の成長をすぐそばで
見て続けてきた。春夏秋冬、春には給食のハヤシライスのグリンピースを鼻穴に
つめて発射したり、夏には、乾いたプールサイドにつけられたザギハの足跡が、怪獣
図鑑のケムール人と同じだったこと、秋には霜のはった道路で自転車ごとスリップ
した彼女が、シルク・ド・ソレイユのように農道を転がる姿、冬には、凍った
つららをもぎとって鼻穴に差し込むや「ツララ、ツララ~っ(山本リンダのウララ、
ウララ)」と踊る、四季折々を通じた風物詩が、今も心に焼き付いて
離れない。

そして、それは6年生の運動会で起こった。卒業生の出し物、
マイムマイムは、フォークダンスの中でも一度手をつないだら曲の最後まで固定
されてしまう。小学校最後の運動会なので、みんな自分の仲良しと一緒に手をつなぐこと
が許された。残酷な取り決めである。結果、ウンコ人間のマッキ、キモいデンバー、
ヒゲの生えたエゴハなど数名が売れ残り、その中にザギハもいた。私は「普通の」友達3人
からリクエストがあったので、仲良くあみだくじを作り、組み合わせを決めている
最中だった。そんな私たちの机の前に、ハート様のように立ちはだかる影....
ザギハはあみだをはらいのけると、私の手をとって自分の席に連れて行った。
誰も見て見ないふりをして、私のマイムマイムのパートナーが決まってしまった。
ザギハが右隣、ちなみに左隣はいつの間にかデンバーになっていた。

一列になって入場行進をする私たちは、校庭の真ん中でオリンピックの5つの輪に分かれ、
きれいな五輪が完成するとマイムマイムの曲が流れる予定になっていた。すると、私の
前を歩くザギハの様子が何かおかしい。後ろのデンバーが私にささやく。

「ねぇ、ザギハしょんべんぢゃね」

ちなみにデンバーも女子である。言われてみれば、思いっきり引き上げられた
ジャージがお尻にめり込んで痛そう。何かを我慢するように出っ尻になったり前に
押し出したりと、まるでハゲカツラで天秤棒を担ぐドリフのコントのようだった。
時に早くなったり遅くなったりと明らかにテンポまでおかしい。その時、
デンバーがつぶやいた。

「ありゃあ」

ザギハのお尻に1点のシミが現れると、それは見る見る間に円形に広がった。

「やっちまったな」

うすら笑いを浮かべるデンバーが怖い。さすがにこの時はお尻を押さえて
泣き崩れるザギハ。B組の男性教師が走り寄ってきて私たちに叫んだ。

「何してる、そこの2人!すぐに保健室に連れて行きなさい」

デンバーは聞こえないふりをして隣のエゴハの方を向き、2度とこちらを
見ない。私は4年生の時を思い出しながら相変わらず大きなザギハの
手をとって保健室に連れて行った。保健室の窓から、小学校最後の運動会の
マイムマイムを見つめる。楽しそうに踊るデンバーの顔が憎い。頬づえをついて
もはや加わることのできないダンスを見つめる私の手は、なぜか濡れていた。

この件を境に凶暴さを増したザギハは、もはや私にもとめることが
できなくなっていった。放課後、図工室掃除の最中に、縄跳びをしていた男子の
縄の片方がもげて、ザギハのほっぺを直撃。その場全員に沈黙が走る。
一瞬、世界の時間が止まると、その後「おぎゅあぁぁ」という断末魔の雄たけびが
校舎中に響きわたった。
次の瞬間、ザギハが顔から血をたらしながらムチになった縄跳びを振り回して、顔面蒼白
の男子を追いかけていた。車体感覚のない彼女は、図工室にある途上のビーナス像を
次々になぎ倒しては粉砕、たまたま床に座って絵を描いていたデンバーの
「ミドリのグルービーケース」と「アーム筆入れ」を踏み潰して粉々にすると、
ブルドーザーのように走り去っていった。呆然と立ちすくむデンバーを見つめながら、
私は、当時放送されていたアーム筆入れのコマーシャルフレーズを思い出していた。

「パォーッ(ゾウの鳴き声)!ゾウが踏んでも壊れない」

中学生になってもザギハは同じ学校。それでもクラスが違ったせいで、もはや彼女の
武勇伝を聞くこともなくなっていた。そんなある日、休み時間にザギハと同じ
クラスの男子が私のところにやってきた。

「あのさ、ザギハと仲いいの?」

大人しくインテリのS君は、今、ザギハのお気に入りらしく、毎日休み時間に
なると「彼女の日記の読み聞かせ」に付き合わされているらしい。ただ、
内容があまりにも重く、もはや1人では抱えきれなくなったとのこと。そこで、ザギハ
が「あいつとは親友だ」と豪語する私が、もしかしたら彼と同じ「読み聞かせ」に
付き合わされておなかいっぱいになっているのでは、と重荷をシェアしに来たらしい。
興味津々の私が内容を尋ねると、「それじゃ、昨日の日記」と言って、
ザギハの口調を真似ながら「読み聞かせ」てくれた。

「ダンプの仕事から帰った靖男とコタツに入って話をしていると、あいつの
 足が私の両足を押し分けて伸びてきた。その後は...」

当時13歳の脳裏に、忘れかけていた4年生の頃のブランコのザギハがよみがえる。
あの当時すでに高校生と土管に入っていたザギハは、いまや社会人のダンプの
運ちゃんとこたつに入っていた。教壇の上で無邪気にピンクレディーの「渚のシンド
バッド」を踊るの同級生たちを眺めながら、私とS君は重いため息をついていた。

その頃からお昼休みになるとテラスに出ては、校庭横を走るバイパスのダンプに
向かって手を振るザキハを見るようになった。「ホーッ」とハンカチを振ってダンプが
見えなくなるまで二の腕の振袖も振る。その年の夏休み、彼女はダンプに乗って
失踪してしまった。高校の受験期には、ビューティペアのようなプロレスラー
になりたい、と言って女子プロの門をたたいたらしい(未確認情報)。

高校が別になり彼女の噂も聞かなくなった私は、22歳で彼女と再会を果たす
ことになる。

教育実習で地元に帰省していた私は、スーパーのレジで見覚えのある顔を
見つけた。相変わらずの巨体だが、彼女の体の成長はほぼ小学生で
とまっていたので、今は私よりも小さくみえる。

「よぉ!」

聞けば、すでに結婚していて子供が2人もいるとのこと。ここで働いているから
遊びに来い、と言うなり、次のお客のレジかごに手をかけた。仕事にプロ意識をもち、
子供を育てる母親の顔。子供の頃のジャイアンの面影をなごり惜しく見つめながら、
私は1人スーパーを後にした。
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| | 2013/09/16/Mon 23:23 [編集]
Re: すさまじい生活を送ってきた友達がいるのですね
kungfu0807様:いつもコメントありがとうございます!

kungfu0807様は、いつも不意を衝いて攻撃してきますねW
ご覧いただいてお分かりの通り、このブログを書いていた頃はとてもアクセスが
少なく、誰にも読まれていない記事であったと思っています。
今後ネタ切れになった時に、もう一度推敲して出そうと思っていたのですが、
kungfu0807様にはネタバレになってしまいましたねw
もしや他の過去記事も見ていただいたりしています?
いずれにしてもとても嬉しいです。
ありがとうございました!

ウォーリック | URL | 2013/09/16/Mon 23:33 [編集]
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| | 2014/08/03/Sun 22:51 [編集]
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