猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

梅子の電話
会社のランチタイム。皆で林真理子の「野心のすすめ」について話していると、
同僚の梅子が口火を切った。

 「ユーミンたら、以前、林真理子に "あんた、だんだん松本清張に似てきたわね" って
  いったらしいわよ」

アンチ林真理子でユーミンファンの梅子は、このコメントに溜飲の下がる思いだった様子。
でもさすがにこれはひどい。松本清張のくちびる...

少しだけ林真理子が可愛そうになった私は、梅子に向かって一言。

 「パンスト顔のユーミンは、本名が金玉子よ」

梅子の眉毛が段違い平行棒になった。「5時に夢中!」の岩井志麻子バリの下ネタに
自分でも辟易とする私。これは有名な「柏原芳恵さん空港バイブ事件」と同じくらい
信憑性のない都市伝説で、今もネットでまことしやかに語られている。何の悪気もなく、
ただユーミンに私なりのお灸をすえたかった。すると、尚も梅子が食い下がる。

 「たぶん本当は佐藤玉子だったのに、金さんの後妻に入った母の連れ子として、
  仕方なく養女に入ったのよ。きっとそれで金玉子になったんだわ。もともと金姓で、
  生まれた女子にあえて玉子なんてしょっぱ過ぎる。最後の選択だわ」

ここでランチタイムにもかかわらず、梅子に電話の取り次ぎが入った。「あたしは
死にましたっていってぇ~っ」と駆けていく彼女の後ろ姿を生ぬるく見送りながら、
「梅子の電話シリーズ」を思い出した。

私の会社は、翻訳以外にも外国人のナレーターを扱っている。企業紹介の映像
やテレビコマーシャルで流れる外国語のキャッチフレーズには、日本の声優さん
同様、プロの外国人ネイティブナレーターがいる。

映像制作会社や広告代理店からリクエストがあれば、こちらからボイスサンプルと
顔写真を送り、イメージにあった外国人ナレーターを選んでもらう。ギャラを
決めたり、レコーディングの日取りを調整したり、スタジオで彼らの通訳を
したりといった、一種、マネージャー的なことにも対応している。

登録されたナレーターは英語だけではない。中国語(北京語、広東語)を
始めとするアジア言語からヨーロッパ言語、また、男性、女性の別まで、多数の
ナレーターを登録している。

ある日、某菓子メーカーの企業紹介ビデオ用に、アメリカ英語の女性ナレーター
の連絡が入った。手が離せなかった私は、英語の上手な梅子にナレーターの
スケジュール確認を頼んだ。二つ返事で梅子が電話をかけている。

遠目に眺めていると、受話器を耳から外すや思いっ切り電話を切る梅子の姿が
見える。そしてそのままクルリとこちらを向くと、私に向かって突進してきた。

 「あんたやばいわよ!」

電話をかけたアメリカ人ナレーターの留守電が正気の沙汰ではないので、すぐに
私もかけてみろという。そんな暇がないから頼んだんでしょ、と受話器をもつ私。

 「Hello, this is Catherine speaking, may I help you?」

本人が出た。スケジュール確認をして電話を切ると、横でうさん臭そうな顔をした
梅子がつぶやいた。

 「さっきはのび太がでたわ」
 「・・・・」

梅子の一言に周囲は大爆笑。実はこのナレーター、キャラクターボイスといって、
日本でいうアニメ声優もやっている。英語版のび太君は彼女が吹き替えを
していることを知っているのはこの私だけ。恐らく留守電で「僕、のび太です」
ぐらいやらかしていることは容易に想像がついた。でも、あえて梅子には言わな
かった私。サングラス姿の私を「秘密クラブのマダム」呼ばわりしたお返しだ。

そして、後日。
何やら電話をかけていた梅子が、またぶっつりと電話を切っている。お客様に失礼だ。
その足で私の所にデデデと走ってくると、

 「あんたやばいわよ!」
 「今度は何よ」
 「愛があれば大丈夫だって」
 「・・・・」

さすがに何だか分からない。先方にこう言われた梅子は、すかさず
「担当者が別になるので、ウォーリックあてにかけ直していただけますか」と言って
電話を切ったらしい。何でも宗教っぽくて不気味だから、私に担当を変わって
くれと言う。また不気味担当かいっ!

トゥルルルル、トゥルルルル・・・・
梅子が瞬時に電話をとるや、お待ちください、と言って私に目くばせをする。
梅子のテンションが船橋のゆるキャラふなっしーみたいになっていて怖い。

 「はい、お電話変わりました。担当のウォーリックと申します」
 「ありがとうございます。愛があれば大丈夫です」
 「・・・・」

しばらく話を聞いていると、担当者の名前が出てきて、ようやくこれが会社名で
あることに気づく。社名を言うのにちょっとした気恥ずかしさがともなう感じが
素敵。いずれにしても創業者の想いが伝わるいい社名だと思う。

この会社については後日談がある。私と梅子が緊急の仕事で深夜残業をしていると、
某有名広告代理店の担当者が梅子に電話をかけてきた。電話を切るなり梅子が
ブチ切れている。

 「あいつったら "今、新宿のキャバクラにいるんだけど、進捗はどう?" だって」
 「また?」
 「あとね、愛があれば大丈夫、はつぶれたらしいわよ。今、ヤツが言ってた」

この担当者がキャバクラから電話をかけてくるのはいつものことでも、あんなに素敵
な社名の会社がつぶれてしまったのはショックだった。

愛があってもダメだったのね。

スポンサーサイト

コメントの投稿

 管理者にだけ表示を許可する

おはようございます。
ネリムです

世の中愛だけでやっていくのは
難しいなと思いました。
ネリム | URL | 2013/08/03/Sat 10:26 [編集]
Re: タイトルなし
ネリム様:いつもコメントありがとうございます!

改めて検索をしてみたのですが、2011年9月に破産手続きが行われて
いました。本当は、愛があれば大丈夫と思いたいですけど...
ウォーリック | URL | 2013/08/03/Sat 22:17 [編集]
なんとまぁ・・・
活気のある職場ですね~!
現役の頃も今も動きの鈍い私から見ると、
ご自分の仕事も梅子さんのフォローもテキパキと片付けてみえる
ウォーリックさんのお仕事ぶりは、ほとんど感激・尊敬の対象です。
「仕事はできる人の周りに集まってくる」という原理を目の当たりにする思いです。

「愛があればだいじょうぶ」社の破産は・・・ 
致し方ないのでしようが、弱肉強食経済論理の悲哀を感じますね。
残念ながら、きっと愛を必要としない取引先が多かったのでしょう。
(私は愛を必要としています・・・笑)
一本の葦 | URL | 2013/08/04/Sun 13:52 [編集]
Re: なんとまぁ・・・
一本の葦様:いつもコメントありがとうございます!

全然テキパキなんてしていませんよw
でも今の仕事は本当に好きでやっています。

いつもいつも読んでいただいて本当にありがとうございます!
ウォーリック | URL | 2013/08/04/Sun 23:26 [編集]
トラックバック
トラックバック URL

Copyright © 阿鼻叫喚 (あびきょうかん). all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。