猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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梅子とミリアム
会社にて。
遠くの席から同僚OL2人の会話がもれ聞こえてくる。

「"かす"..."けつしろ"..."ごきり"...地名ってホントに変ね」
「うん、ハハハ」

何か嫌な予感がして席を立ち、2人の方に歩み寄る私。この2人は高校からアメリカと
カナダに留学して、大学までを海外で過ごしてきた人たち。英語の会話ではそつなく
ビジネスレベルをこなすバイリンギャルである。

ただ、海外を渡り歩いてきた帰国子女や彼女たち共通の問題は、漢字が読めないこと。
勿論、中にはすらすらと読むことができる人もいるのだけど、時に外人ネイティブの
方が漢字に強かったりする。

今、彼女たちは関東近辺のガイドマップを作成しているはず。地名は難しいから、
ネイティブに翻訳を出す前に、あらかじめ読み方を検索してアルファベットに直して
あげて、と頼んでおいた。特に地名は普通の読み方をしないから必ず検索してよ、と
念を押してあった。

2人のデスクにつくと、地名のリストを見る私。やはり嫌な予感は的中していた。

「ちょっと梅子ったら、ゆうすけで検索してって頼んだじゃん」
「でも、間違ってないでしょ?」

だいたいいくら地名でも「かす」とか「けつしろ」なんて読みがある訳ない。

「けつしろは結城(ゆうき)、かすは加須(かぞ)、ごきりは五霞(ごか)でしょ」

あ、すまんすまんという。この梅子はブログ「かぶりもの」で私を秘密クラブの
マダム呼ばわりした毒舌女。一緒にいるとこの上なく楽しい人物だが、いかんせん
漢字が全然読めない。

郵便番号検索サイト「ゆうすけ」には、難しい地名の住所表記がひらがなで書いて
ある。地名は思い込みで読んでも間違えるケースがあるため、くれぐれもここで
確認するようくどくど言っていると、彼女あてに電話が入ったので席に戻った。

自席でPCに向かうや、遠くで梅子の怒鳴り声が聞こえる。また、何かやらかしたの
かしらと嫌な予感。
するとドカドカと憤懣やるかたない梅子が私の席に走ってきた。

「ちょっと聞いてよ!ミリアムの奴」

ミリアムというのはフランス人の女性翻訳者。自己主張が激しい性格で、口の悪い
梅子とは犬猿の仲である。

「今回のキャッチコピーは翻訳が難しかったからページ単価を上げろって」

一般的にフリーランスの翻訳者とは文字数やページ数で翻訳料金を決めている。
このミリアムは、担当した仕事の内容の難易度によってその都度値段交渉をして
くる。

「それで今回はなんていってるの」
「ほかの下手くそと違って、私の翻訳はバッグで言えばルイヴィトンよって」

ほほう、ふっかけてきたものだと思う。

「それで何ていったの?」
「きょうび、ヴィトンなんてドンキとかでも売ってますしっ、て言ってやった」
「wwwそしたら?」
「ドンキってなんですかって」

外人相手の交渉には時に戦いも必要。大人しい日本人をやっていてはビジネスの
国際紛争には勝てない。するとすかさずミリアムから私あてに電話が入る。
泣き落としの最後の砦はいつも私になっている。

「ウォーリックさん、どうして◯◯さん(梅子の名字)はあんなにイタケダカ
 なのかしら」

マダムモレシャンのようなフランス訛りでミリアムが叫ぶ。居丈高は梅子には
読めない漢字だ、と思いながら、今回は予算に限りがある旨、また、ミリアムの
翻訳には定評があるので、次回の案件で埋め合わせをさせて欲しいと頼んで
穏便に電話を切る。

「そんな言い方するからつけあがるのよ。何がルイヴィトンじゃ」

横で会話を聞いていた梅子がプリプリしている。
どっちもどっち。それにしても本当にルイヴィトンはドン・キホーテで売ってる
のかしら?

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笑うのは失礼かもしれないけど
笑っちゃいました!

同僚に外国人がいて羨ましいです!
小判鮫のコバンちゃん | URL | 2013/07/03/Wed 01:08 [編集]
まさしく阿鼻叫喚の毎日を送っておられますね。
私は抱腹絶倒しながら読ませていただいております。
ボケかけた脳細胞が活性化し始めました。
深く感謝申し上げます。
優の水彩工房 | URL | 2013/07/03/Wed 20:51 [編集]
結城が「けつしろ」・・・!
先日の日本語アナグラムも ほぉ~、なるほど って感じでしたが、
この「けつしろ」も けつ作、じゃない、傑作ですね~(笑)
本人がワザとじゃなくて心底 真面目にそう読んじゃってるところが
ユーモアというか、ペーソスですね。
梅子女史はちゃきちゃきバイリンギャルだそうですが、
ウオーリックさんへの日頃の毒舌ぶりを以前読ませていただいているだけに、
それとの対比がいっそう鮮やかです。

ある日の社内の一場面が手にとるように伝わってきました。
まるで私もその場に居合わせているような臨場感ですよ!
微温湯的な毎日に適度の刺激を与えていただき、ありがとうございます^^
一本の葦 | URL | 2013/07/03/Wed 21:51 [編集]
面白いですねえ~
キレがいいです!
まるでコントの台本みたいです!(と言ったら失礼になっちゃうんでしょうか?)
| URL | 2013/07/03/Wed 23:19 [編集]
はじめまして
ウォーリックさん、はじめまして。
たきやん。と申します。
少し前からロム専で来させてもらっております。
美しい日本語の使い方にいつも圧倒されております。

「かす」は苦笑いしてしまいました・・・
自分も初めてその地名を見た時にそう読んでしまいましたので。
たきやん。 | URL | 2013/07/04/Thu 00:01 [編集]
Re: タイトルなし
コバンちゃん様:いつもコメントありがとうございます!
楽しい職場ですがちょっと転職も考えています。
ウォーリック | URL | 2013/07/04/Thu 10:30 [編集]
Re: タイトルなし
一本の葦様:いつもコメントありがとうございます。

彼女は少し低めの声できれいなアメリカ発音の英語を話すので、電話で
話しているのを聞くとまるでネイティブのようです。色々とお褒めの言葉を
いただいて恐縮です。また遊びにいらして下さい。
ウォーリック | URL | 2013/07/04/Thu 10:38 [編集]
Re: タイトルなし
M様:いつもコメントありがとうございます!

よくよく考えると、本当にコントのような毎日です。
社外の友人に話すと大抵信じてもらえませんw

言葉を扱うセクションなので皆それぞれのこだわりが出てくるの
かも知れません。普通の会社ではおみやげの「ちんすこう」で
話が広がることもないと思いますので。
ウォーリック | URL | 2013/07/04/Thu 10:48 [編集]
Re: はじめまして
たきやん様:コメントありがとうございます!

私もBurning Heart楽しみに拝見しています。
何かどんどんと実験的な試みをされていて、これからどこに行くのか
楽しみにしています。これに懲りずにまた遊びにいらして下さい。

ウォーリック | URL | 2013/07/04/Thu 10:53 [編集]
Re: タイトルなし
優の水彩工房様:コメントありがとうございます!

こちらこそいつも素敵なブログ拝見しています。
優さんの絵に漂うノスタルジックな雰囲気が水彩の透明感と
マッチして、いつも素敵だなとため息をついています。
最近の「競輪の勝負服」は、前景のポピーと空の色のコントラスト、
そして走る選手の姿の全てが溶け合っていて、個人的にとても
お気に入りです。

今後とも宜しくお願いいたします!
ウォーリック | URL | 2013/07/04/Thu 20:39 [編集]
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