猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

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明治神宮のスズメ
先日、平日にお休みをとり部屋の掃除をしていると、明治神宮のお札が出て来た。
毎年きちんと返納していたつもりが、なぜか今年はまだここにある。ちょっと気になった私は、
早速、明治神宮に出向くことにした。

私は明治神宮が好きだ。別に右翼だからとか変な理由はない。東京に住んでいた頃は、
ほぼ毎週のように訪れていたお気に入りの場所。都心にあって緑にあふれ、伝統的な日本
建築と、そこを行き交う外国人というミスマッチが興味をそそる観光スポットだ。その周囲を
見れば、神社を出て代々木国立競技場を抜けると渋谷、また、竹下口からは表参道にもアク
セスが出来て、東京のファッションストリートを一度に闊歩できる。歩くのが好きな私は、明治
神宮の北参道から代々木方面に抜けて、そのまま新宿南口まで歩くことが多かった。

神札を返しながら、久しぶりに原宿を歩こうと思った私は、お札をもって明治神宮に向かう。
海辺を走る電車に揺られ、都内までは40分程の距離。千葉に引っ越してからは、通勤以外で
都内に出ることがめっきり少なくなった。午後の東京湾は波が静か。キラキラと乱反射しながら、
空には巨大な夏の入道雲が立ちのぼる。夏の夕暮れは夕立と相場が決まっていたのに、雨は
いつしかゲリラ豪雨になってしまった。情緒のかけらもない攻撃的な雨のつぶてが、きっと
今日もやって来そうなたたずまいを見せている。

代々木で降りると、日陰を選んで細い道に入る。夏の私は電信柱の陰から陰おんな。日焼け
防止の真理子の手袋 (ある一定の年齢の人にはわかるスチュワーデス物語) をして、縁の
ついた大きな帽子に日傘、そして恐ろしいまでに似合わないサングラスをかけて、足早に
日蔭を渡り歩く。ウインドウに映る私の姿は、やはり秘密クラブのマダムだ。ふと前方に目を
やると何やら行列が出来ていた。交通量の多い道の横に、へばりつくようにつけられた舗道。
人一人通るのがやっとの舗道は、もし脇の車道に出れば即あの世逝きの交通量だ。そんな
細い舗道を、皆、前の人を追い越すことができずにとぼとぼと歩いていた。

ああ、ちっとも前に進まないぢゃないの!

それにアヅイ、なんて暑さなんだ。背中を流れ落ちる無数の汗の糸。この不快感に業を煮や
した私は、イライラと行列の先頭に目をやった。そこには真っ黒な塊が一つ、日傘をさして
ゆっくりと地を這うように歩いている。くるぶし丈の黒のスカートは、カタツムリかホバークラフト
のよう。さしている日傘は、雨傘を通り越してレースクイーンのパラソルサイズ。その傘をさして
いるのはウバザメのような女だった。

向こうから歩いてくる人が、その脇を通り過ぎる。するとその女は大きなパラソルを傾けて
気をきかせるどころか、そのまま突進。結果、相手の頭にはブスブスと傘の突起が突き
刺さり、痛そうにガン見しながら通り過ぎていく。自分の美肌を守るために、凶器で繰り
返しの他人攻撃。しかも体格が尋常でない。道幅いっぱいいっぱいの体は、申し開きの
できないデブだ。きつく締め付けたブラの上下からはみ出た肉山の盛り上がりは、九州
南部のシラス台地。ブラウスはお構いなしの膨張色 「白」 を基調のボーダーで、ハンパ
ない量の汗がブラの黄ばみまで透過している。しかも下に合わせたスカートはコスプレを
思わせる黒のドレス。ママさんコーラスの発表会でおばちゃんが着るアレだ。

それにしてもなんでこんなに遅いんだろう。

宮崎駿風味。荒れ地の魔女ともフキをさしたトトロともつかない彼女の歩みの遅さと、灼熱の
太陽に痺れを切らした私は、同じ思いの数人と共に信号を渡り、向かいの舗道に降り立った。
反対側の舗道からは、巨デブに道を阻まれた哀れな人たちが、グリム童話の金のガチョウに
くっついたままゾロゾロと一列に後を着いていくのが見える。お気の毒、でもこれでやっと前に
進めるわとスピードを上げる私。そして追い越しざまに顔を見てやろうと思った私は、その
斬新な髪型に圧倒されてしまった。こんな感じ↓


       zura_convert_20140728053848.jpg


さらに彼女の手元を見るや、何やらシュッシュッと画面を滑らす太い指。そう、彼女は歩きスマホ
をしていたのだ。ダラランとしたたる汗を拭き拭きパラソルの柄を脇に挟んだまま、器用に前足
を操って画面を見つめる小さな目。朝青龍のような力士顔の彼女は、自分がどれほど人に迷惑
をかけているか気にもかけない。正面から自転車の人が迫っているのに気づかない彼女は、
チリンとベルを鳴らされ大きく舌打ちをした。心によぎる薄い殺意。デブもたいがいにしなさいよ。
五両払って仕事人を頼みたい衝動に駆られながら、何も見なかったことにする。だって私は
これから明治神宮にお参りするのだもの。

玉砂利を踏みしめながら鳥居をくぐり、受付にいくと私以外に人がいない。申込書と初穂料を
添えて出すや、そのまま通され、私の後ろでピシャリと戸がしまる。えっ、私一人ですか?と
聞くとそうですという。160畳の広大な願主席にぽつんと一人座る私。すると、遠慮せずにもっと
前にどうぞと勧められる。

ああ途中で眠くなったらどうしよう、足がしびれてでんぐり返ったら恥ずかしいと、観客たった一人
のプレッシャーにさいなまれてみる。大太鼓が打たれるや、お清めのお祓いが始まった。厳かな
雰囲気の中祝詞が奏上され、巫女の方が花を片手に神楽 「倭舞 (やまとまい) 」 を舞う。
シャリシャリシャリと鈴が鳴らされると、どこか遠い場所へと意識が遠のいていく感じに包まれ、
全身総毛立ち。なぜかとても心地よい境地になる。たった一人の贅沢なお祓いは、多分これが
最初で最後かと思いながら、新しいお札をいただいて神楽殿を後にした。

山手線に沿って原宿口に向かう私は、入り口のカフェに立ち寄った。明治神宮に来た時は必ず
立ち寄る場所。いつものチョコクロワッサンとカフェオレを頼んで、テラス席につく。ここに座って
いると、南参道の大きな鳥居前で記念写真を撮る外国人や、和服姿の参拝者、そして激しい
コスプレ姿のティーンが一望できて本当に楽しい。人を見るのが好きな私には、最高の人間
観察スポットだ。さてとばかりにクロワッサンに手を伸ばすと、白い丸テーブルの上にスズメが
降りてきた。同じ大きさ、同じ模様のどこにでもいる二羽のスズメ。このありきたりな野鳥を
見つめながら、とあるニュースを思い出す。

先日紙面を賑わせた日本ウナギ絶滅危機の記事。ウナギ好きな日本人にはとてもショッキング
なこのニュースに隠れて、実はスズメやミツバチ、メダカといった種が絶滅に瀕している事実は
あまり知られていない。彼らが巣をつくる日本家屋の減少に伴って、スズメの数が減っているのだ。
物心ついた時からどこにでもいたスズメ。あまりに当たり前過ぎて、何のありがたみもない小鳥。
メジロやカワセミを追いかけるカメラをもった人たちが振り向きもしない雑鳥。被写体として綺麗な
鳥のリストには載ることのない野鳥。

いつも私たちのそばにいた小鳥。昔話の舌きりスズメでは悪いお婆さんに舌を切られ、安寿と
厨子王では米をつついて追い払われていた小さな鳥が、今、絶滅の危機に瀕しているという。
何があっても最後まで生き残る、あたり前のつまらない鳥と思っていた私は、逆にそれだけ
身近な彼らがいなくなってしまうかもしれないという事実に恐怖した。それは佐渡島のトキが
最後の一羽になった時の絶望感。雌雄ツガイではなくなった時点で、一つの種がこの世界から
絶滅した瞬間を知る、あの強烈な喪失感だ。

そんなニュースを思い出しながらふと目をやると、目の前のスズメが私のクロワッサンを
狙っている。少し砕いてテーブルにこぼすと、一羽がくわえてもう一羽のそばにチュンチュンと
歩み寄っていった。

すると、待っていた一羽が突然低姿勢にしゃがみ込み、羽をばたつかせながら口をあけ
ピーピー鳴き始めた。どうやらこの二羽は親子のよう。ほとんど親と見分けがつかない体に
なっても、いまだエサをねだるヒナを見つめながら、この鳥が絶滅するなんて絶対に嫌だと
つぶやく。粉々になったクロワッサンを見つけて、スズメたちが次から次へとやってくる。

ふと見ると遠くの鳥居の下では、先ほどの朝青竜が外人に囲まれて写真を撮られていた。
見た目の異様さからコスプレ腐女子に間違われたのか、パシャパシャと写真を撮られる彼女。
もの凄い勢いで怒りながら、パラソルで外人を威嚇している。そしてすぐさま守衛さんに
捕まると、ドレスの裾を引きずりながら神社の外につまみ出されていった。

スズメたちが私のテーブルから一斉に夏の空に飛び立っていく。

その姿を見送りながら、彼らをトキの二の舞にはしたくないと、心から思った。


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