猫と海辺に暮らす翻訳コーディネーターの阿鼻叫喚な日々を綴る日記。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

祈り
先日、国立科学博物館で 「深海」 特別展を見る。

サブタイトルの 「この夏、伝説のダイオウイカにあう」 に惹かれて上野に足を
運んだ。 「一緒にダイオウイカとマッコウクジラ見に行こう!」 と同僚たちを
誘ったものの、女性陣からはキモイの一言。外人達からも遠回しの断りが入り、
結局一人で見に行った。

期待はしていなかったものの、さすがに貴重な休日を使ってイカを見に行くOLは
いないようで、ただただドン引きされてしまった。フン、この現代で宇宙銀河にも
増して興味をそそるものは、もはや深海生物しかないのだ!深海こそ地球に残された
最後の秘境じゃ!と一人ブツブツつぶやきながら上野の坂道を上る。

そんな不機嫌も遠くに博物館が見えてくると、あっという間に吹き飛んでしまう。
私はこのエリアが本当に好きだ。広々とした噴水を中心に国立西洋美術館、国立
科学博物館、東京国立博物館、上野の森美術館、東京都美術館、そして東京芸大が
林立する文化と芸術の中心。いつも美術展のハシゴで1粒で2度おいしい充実の
スポット。横には不忍池や上野動物園、坂道を降りればアメ横もある。最近は
駅周辺にも続々と新しいテラスやカフェができ始め、かつての野暮ったさが姿を
消し始めている。

大きなクジラのオブジェが見えると、もう胸の高鳴りが治まらない。私は本当に
深海魚が好きだ。中川翔子が 「しんかい6500」 に乗って海の底に沈んでいく
のをどれ程羨ましく思ったことか。出来ることならダイオウイカの足にからめ
とられて、一緒に海の底に沈んでしまいたいと思う。子供の頃に絵本で見たマッコウ
クジラと戦う巨大イカ。まさかあのセピア色の挿絵が実在するなんて魔法のようだ
と思う。

とはいうものの、館内に入るや、やはり場違いさが際立ってしまった。客層は見事に
老人、家族連れかカップルの3タイプのみ。何気にアカデミックな内容説明を集中
してみていた私の隣で、電波女が男にしなだれかかりながら奇声を上げる。

 「あっあっ見てぇ、ヤバい、キモぉ~っ」

ええぃ、キモイのはお前じゃ!と言わんばかりに振り返った私を見るや、男の陰に
隠れてどこかに消えてしまった。どうやらまた私の目からビームが出ていたらしい。
鬼の形相。別に若者たちの恋路の邪魔をした訳ではない。深海魚の見た目を
承知の上で入場して、一体誰得とばかりにしなをつくるアンコウ女が許せないのだ。

海の中を群れて泳ぐマッコウクジラ、そのレプリカとしてしつらえられたマッコウ
クジラの頭部、そして、撒き餌にしがみつく生きたダイオウイカの表情。この巨大
イカはなぜかとても人間っぽい目をしていて、カメラをじっと見据えていた。

それをキラキラと目を輝かせて見つめる子供たちの表情。一瞬たりとも見逃さない
ように、息を殺して一生懸命に見ている。目の前にいる生き物をそのまま受け入れる
子供たちは決してキモイなどと言わない。それは無意識に生命の尊厳を肌で感じて
いるから。変な先入観を植え付けて、キモイなどと言うのは親や大人たちだ。

ミュージアムのお土産コーナーで、化石や昆虫、恐竜や深海魚に興じる子供たちを
見つめながら、シリアの子供たちに想いを馳せた。本来であればこの子たち同様、
きちんとした教育を受け、家族団らんを楽しんでいるはずの子供たちが、今、内戦の
犠牲になっている。化学兵器で殺されている。

博物館を出た私は、ダイオウイカの興奮がどこかに行ってしまった。その足で
電車を乗り継いで明治神宮に行く。玉砂利を踏みしめながら本殿に到着すると、
一日も早く内戦が治まるように、これ以上戦いが起こらないように、そして、シリア
の子供たちもダイオウイカの展覧会を見られるような平和を下さいと祈った。
私は本当に無力だ。



そして今日、ニュースでシリアに対するアメリカ軍事介入への可能性が伝えられた。

人間はいつまで経っても変わらない。

150年も生きる深海魚は、太陽の光が届かない海の底できっと浅はかな人間たちを
笑っているに違いない。


スポンサーサイト

街で見かけた有名人
私は人間ヲチが大好きで、電車の中や街角のカフェ、本屋さんからレストランに
至るまで機会があれば人を見ている。はたから見れば非常に挙動不審見えることは
分かっていても、この楽しみだけは譲れない。

そんな私の投網には、数々の興味深い人々に混じって有名人も引っかかる。
だから別にどうということもないのだけど、テレビ画面の向こうの人たちが自分の横に
立つとこれぐらいなんだ的な現実感がとても楽しい。

印象に残っている順でいえば、まず楳図かずおさん。彼の漫画には子供の頃から
本当にお世話になっていたので、初めてお会いした時は心臓が止まるほど嬉しかった。
その日、山の手線の中で何気なく外を見ていた私は、なぜか隣に立つ人の服が気に
なって仕様がない。

紅白ボーダー柄のパジャマ風コスチュームに、はたと顔を向けると、そこには吊り革に
ぶら下がった見覚えのある顔が!「洗礼」「漂流教室」は言うに及ばず、「ミイラ先生」
「おろち」「赤ん坊少女」などなど、数々の名作が走馬灯のように脳裏をよぎり、興奮
のあまり声も出ないままバシバシと肩をたたいてしまった。

まったく意味不明の無慈悲な暴力にも顔色一つ変えずに微笑みを返してくれた彼は、
電車が駅に着くやいなや「グワシ!」と指を突き立てて風のように去って行った。
せめて握手してもらえば良かったと悔やまれる。それ以降も高田馬場近辺で何度か
遭遇している。

次はスポーツ選手。その日小竹向原の駅で地下鉄に乗ろうとした私は、あまりに
ボーっとしていたため、ドアが開くやいなやそのまま直進してしまった。そして何かに
ぶつかる。よく見ると目の前に人のみぞおちがあり、その上に大きな胸と肩、さらに
その上を見上げると、何とテニス選手の松岡修造さんだった。本当にデカい。

以前、渋谷でセイン・カミュにインタビューされた時よりも背が高かった気がする。
今の三枚目キャラからは想像もできない強烈な王子様オーラを全身から放射しながらの
闊歩は、ワンストライドが私の三歩分。こちらがぶち当たったにもかかわらず、一言
「失礼」といい残し、颯爽と去って行った。

最後はあの人物。PARCO劇場で演劇をみた時、幕間になると突然隣にいたおばさん
たちがざわめきたった。

「まぁ、綺麗ねぇ」とか、「おっぱいは本物かしら」などと言っている??おばさんは基本
いつも自由。恐る恐るその視線の先を追うと、何と美輪明宏さま降臨!

席に着いておもむろにバッグから何かを取り出した彼女は、包みを開いて大福を取り
出した。そしてそのままひと口で飲み込む。髪は一つにババ縛り、シックな黒のドレスに
身を包み、そこかしこにスパンコールがキラキラ。
大福を飲み込む瞬間、極低音の「うぉえっ」という吐息をもらす姿が、まさにハウルの
荒れ地の魔女そのものだった。

一連の成り行きを見守ったおばさんたちが、何を思ったか今度は自分たちのバッグを
まさぐり、あめちゃんを交換したり、得体の知れない固まりを食いちぎり始めた。
こうなるともうお芝居も美輪さまもあったものではない。そばには他に雨宮良さんも
いらしたのだけど、おばさん達が片手で口を隠しながら、つまようじでシーハーし始めた
時は、さすがに美輪ビームが炸裂、ここは浅草のストリップ小屋ではないのよ。

それにしても独特な方。個性などという言葉はすでに超越した、この世で唯一無二の
「美輪明宏ブランド」だ。

他にも山田邦子、小柳ルミ子、山本太郎、鈴木大地、羽賀研二、安田成美、早見優、
河合奈保子、山田詠美からラウドネスまでたくさんたくさん遭遇したけど、インパクト
という意味では、このお三方が最強だった。やはり有名人には独特のオーラが
あるように思う。



都市伝説
嘘か事実か、まことしやかに囁かれる都市伝説の数々。そんな中から、私の心に
強烈なインパクトを残したものを書いてみようと思う。

国分寺の塀
これは随分と前の噂。JR国分寺駅から伸びる道路沿いには高い塀が続く道があり、
その道が地元民を恐怖のどん底に陥れているというお話し。
終電が過ぎて駅から一通り人々が吐き出されると、閑散とした深夜の駅前ににわか
に霧がかかる。タクシーを拾うことなくこの塀に沿って道なりに歩いていくと、
歩行者のはるか後方から衣擦れの音が聞こえてくる。その音はだんだんと歩行者に
近づき、さらさらと高いところから聞こえてくるらしい。

そう、それは幅10センチもない塀の上を、自分に向かって全力疾走してくる老婆
の姿。長く振り乱した白髪を風になびかせ、白装束を身にまとう。その手には
数珠をもち、自分を追い越してさらに走り続けて行く。しかし、10メートルほど
行き過ぎたあたりでピタリと止まるや、ゆっくりとこちらを振り返るという。

塀の上で不気味に微笑むその目は、ただの真っ暗な節穴になっていて、ダラダラと
血の涙を流し続けている。パックリと開かれた口の中に見えるのは、大きく盛り
上がった歯茎のみ。その老婆が高い塀の上からヒラリと飛び降りると、フニャリと
頭と両手だけになり、ほふく前進で追いかけてくる。

この都市伝説をもとにしたものかどうかは不明ながら、全力疾走の老婆部分は
2012年に「高速ばぁば」、頭両手のほふく前進部分は2011年に「テケテケの
恐怖」として映画化されている。「テケテケの恐怖」は、AKBの大島優子主演。
でも、テケテケ本体のつくりはどこか筋肉少女帯を思わせる。興味のある方は
こちらをどうぞ (結構怖いです)↓

テケテケの恐怖 http://www.youtube.com/watch?v=K5WJON4zoiU
高速ばぁば    http://www.youtube.com/watch?v=Csi2xwKxHXw

おにぎりお姉さん
新宿の百人町に出没するという「おにぎりお姉さん」。頭には給食当番の三角頭巾
をかぶり、真っ白なエプロンをつけたデブ女が、大きなバスケットをもって
たたずんでいる。夜のとばりにかくれて顔はよく見えないが、放送コードギリギリ
の顔面偏差値。通りかかる男性に笑顔で声をかけるものの、笑顔がキモ過ぎで
誰一人として立ち止まってくれない。よくよく耳を澄まして聞いていると、
「おにぎりいかがですか?」などと言っている。夜の百人町でおにぎり (゚Д゚|||)

やっとのことで1人の男性が立ち止まり「それじゃ1個ちょうだい」というや、
彼女は男性の手を引いて暗闇にエスコート。おもむろに男性のチャックをおろすと、
中身を手に取った。慌てた男性が「何をするんだ!」と、問いただすと、

 「ただ今、お握りしております」

なんだかなぁ、このおやじギャグのようなオチ。手を動かすと風営法に抵触するから
握るだけなんですとかなんとか、斜め上の回答だったように思う (; ̄Д ̄)

コピーお姉さん
今度は、渋谷に出没するといわれるコピーお姉さん。なんだかさっきのおにぎりと
同じにおいがしていやなのだけど、こちらは一切接触なし。夜になるとパルコの
辺りでコピーを配っているらしい。

普段は普通のOLをしている彼女は、仕事を終えるとコピー室にこもって20分ほど
出て来ない。彼女はここで最新鋭のカラー複合機 (コピー) の前に立つ。内側から
鍵をかけ周囲に人がいないことを確認すると、ゆっくりと下半身の衣服をすべて脱ぎ
捨て、カラーコピーの上でヨガのポーズをとるのだそう。

その間、彼女の下ではカラーコピーが連続稼動。20分もすると大量のカラーコピー
の出来上がり。はた目には拡大されすぎているため、縦にみても横にみても一体何が
写っているのか分からないではないの。お姉さんはその紙のたばをかかえると、渋谷
の人通りにまぎれ、道行く人々にコピーを華麗にばら撒いていくらしい。先ほどの
おにぎり同様、営利目的ではないところが恐怖をそそる。

モロキュウおじさん
こちらは地下鉄東西線に出没するというおじさん。前から2両目と3両目の間に立って
いる。サラリーマン風のコートを着ていて、見た目はこれといった特徴のないごく
普通の風貌。ただ今回はこれまでのお姉さんシリーズと違い、犠牲者のターゲットは
若い美少年オンリー。同じ高校生でもブサ男、デブチン、キモヲタ、ヨゴレ系は
一切スルーで好みにうるさいのが特徴。特に、私立高校のブレザー系が大好物
らしい。

連れの友人がいないぼっちの餌食を見極める。するとゆっくりと車両の間から抜け
出して、美少年の隣のつり革につかまる。ガラス窓に写るイケメンに熱い視線を送り
ながら、獲物がおじさんの視線に気づくのをひたすら待つとのこと。そして車両の
揺れに合わせながら、ズンズンと男の子を自分の巣に押し込めてしまう。ここまで
くればしめたもの、待ってましたとばかりにコートの前をご開帳。すると、何故か、
それまで履いていたはずのズボンやシャツまでがコートと一緒に脱げ、一瞬にして
丸出しになる。紅白歌合戦で天童よしみのドレスがもげるようなアレ。

「ふん、ただの見せ魔じゃん」などとあなどってはいけない。見せられた衝撃で呆然と
する美少年にすかさず背を向けるや、間髪いれずにコートのお尻をめくりあげる。すると
丸出しになったお尻には、きれいにイボイボが削り取られたごん太キュウリがささって
いて、それを指差しながらおじさんが絶叫。

 「おひとつモロキュウいかが」

ふいを突かれてたじろく美少年に最後のとどめをさすように、おじさんが泣き叫ぶ。

 「早く抜いてぇ」

身もだえして体をくねらせながら、美少年に向かってお尻にささったままの
キュウリをブルンブルン震わせるという....

世の美少年の敵。もし私が見つけたら、キュウリの代わりにお大根を差し込んで
さしあげよう。ちなみに今このブログを書きながら、なぜキュウリではなくモロ
キュウなのか、そのカラクリをやっと理解した私。下ネタのダブルブッキングに、
倒れそうになっている。

個人的には「空港の柏原芳恵姐さん」をはるかにしのぐ都市伝説として推したい。


茂原の女子高生
私はペーパードライバー。運転時に人格が豹変する私は、世のため人のため友人たち
から車の運転を禁じられている。

でも、ドライブはしたい!

仕方がないので友人にお願いして、夜のお台場や京葉工場地帯を疾走してもらう。
特に夜の工場が好きで、ライトアップされた化学工場のメタリックな煙突や、宇宙空間
を思わせる建造物を見ると心から萌える。

運転手は、フランス人の友人が多い。彼は、よくこのブログに登場する会社の同僚ではない。
某メーカーの研究員で、マツダのRX何とかという車に乗っている。彼にお願いをし、助手席で
ガンガンあおりながら夜の湾岸を走り抜けている。

先日も休日を利用して、朝から友人達と外房ドライブに行った。
千葉県勝浦の辺りは、海辺に張り付くように片側一車線の細い道路が続く。右手には
崖がそびえ立ち、左手は遥か下に海が見える。車内では、外人達がワイワイガヤガヤと
人の話などそっちのけで自分語り。こういう時はあらての嫌がらせとして、中島みゆきの
「うらみます」をかけることにしている。この曲とピンクレディーの「カメレオンアーミー」
には、なぜか速攻で外人を黙らせる力がある。

少し静かになり、車内には「うらみます」のアカペラが流れ始める。すると前方に看板
が見えてきた。

 「おせんころがし?」

何か嫌な予感。そうこうするうちに、前方にトンネルが現れた。その入り口には追突を
防ぐために、黄色に塗られたドラム缶のようなものが置いてある。すると、小学校低学年
ぐらいの女の子が手をついて、まさにその上に飛び乗ろうとしていた。黄色い安全帽を
かぶり、ピンクのカーディガン、赤いランドセルがどこか昭和を思わせる容姿。

女の子の横を通り過ぎてトンネルに入る。助手席に乗っていた私は、運転するフランス
人に話しかけた。

 「子供があんな狭いところに飛び乗るなんて危ないね」
 「誰もいなかったよ。また見えたの?」

どうやらこの世のものではないものを見てしまったらしい。私は車に乗ると、
見てはいけないものを見てしまう。左が気になるからスピード落としてというと、左の
道路から信号無視の大型トラックが猛スピードで飛び出してくる。深夜の中央分離帯では、
2人の道路工事員が血を流しながらこちらをにらみつけている。また、急に胸がドキ
ドキして理由が分からないでいると、車のヘッドライトに供養塔やお供えの菊の花束が
映し出されたりする。

言われてみれば、あんなレトロな格好の小学生が、しかも人一人歩くスペースのない
トンネルの入り口にいる訳がない。後部座席の外人達が聞いていなかったのを
いい事に、私と彼は黙り込んだ。後日「おせんころがし」は有名な心霊スポットである
ことが判明。

そんなことがあった帰り道、車が茂原 (もばら) という町に差し掛かるや、今度は
やたらと顔の大きな女子高生が遠くの交差点にたたずんでいるのが見えた。本日
2体目の霊は何か遠近法がおかしい。

私はまたかと思いながら、近場に墓地や事故多発喚起の看板がないかと探す。どんどん
と車が交差点に近づくにつれて、その異様さがはっきりしてきた。全部で都合三等身、
とにかく顔が大きい。そして、極端に短い制服のスカートにルーズソックスを履いて
いる。この季節にルーズソックス、しかも今時ルーズソックス。髪は山下達郎を更に
薄くした感じ。どことなく岸田劉生の「麗子像」に似て不気味な微笑みをたたえている。
さらに、スカートから見え隠れする太ももが超ごんぶとなのだ。

車が交差点に差し掛かり彼女の横でスピードを落とすと、私の体は恐怖で凍りついた。
鬼のような形相でこちらをにらみつけながら、しきりに右手親指を立てている。そして、
まさに車が彼女の前で止まりそうになったその瞬間、丁度信号が青に変わり彼女の横を
すり抜けて行った。

肉薄した彼女の顔は、阿鼻叫喚この上ない。女子高生とは思えない皮膚感覚。日に
焼けただれ、ゾウの皮膚のように厚くなった頬。そしてそこからはヒゲのようなもの
まで生えて、深く刻まれたシワがたるんでいる。その彼女が天に向かって親指を突き
立て、歯をむき出しに威嚇しながら何かを叫んでいたのだ。

運転するフランス人をチラリと見るが反応はない。先ほどの小学生の件もあり、本日
2度目の遭遇に今日のドライブが最悪になる。

すると突然後部座席のアメリカ人達が騒ぎ出し、オーマイガー状態になった。

 「Did you see that? What the hell was that (見た?何だありゃ?)」

後ろを振り向きながらしきりに写メを撮っている。どうやらあの女子高生はこの世の
生き物で、車内全員がもれなく目撃していた。安心して気を取り直した私も 「ちょっと
老けた女子高生だったね」 と会話に加わる。いかに地方とはいえ、きょうびの茂原
女子高生のビジュアルは想像を絶していた。すると、外人達が口々にそもそもアレは
女ではないという。

それは、ただの中年のオッサンがセーラー服を着て、外人達にヒッチハイクをおねだり
をするという、もの凄いオチだった。私も午前中の小学生の件がなければ、こんな
目くらましには合わなかったものをと悔しい。一切反応のなかったフランス人の運転手
になんで何も言わなかったのと聞くと、鼻にかかった日本語で、

 「だって、おじさんのお化けもの ( "お化け" と "化け物" が合体したもよう) が
  コワかったんだもん」

と言うのでちょっと可愛くなった。

後日「茂原」「女装」で検索すると、わらわらと出るわ出るわ数々の女装子目撃談。
「今日、文教堂の前で女装おじさん見た」「女装子奈緒の日記だよ」「茂原工業
団地で初女装の子にフェ◯」などなど。実際、一人二人ではきかない生息数を誇って
いる。茂原恐るべし。

ビジュアル的には、あの世の小学生よりもオッチャン女子高生の方が遥かに怖い
夏の終わりでした。



おおブレネリ
小学生の頃、音楽の教科書には「おや?」と思われる歌詞の歌が掲載されていた。
多くは海外の唱歌や民謡に日本語の歌詞がつけられたものだけど、「あえてこの状況を
歌にする理由は」と、子供心に思うものがたくさんあった。

<<ロシア民謡「一週間」>>

 日曜日に市場に出かけ糸と麻を買ってきた
 月曜日にお風呂をたいて
 火曜日にお風呂に入る
 水曜日に友達が来て
 木曜日に送っていった
 金曜日は糸巻きもせず
 土曜日はおしゃべりばかり

 恋人よこれが私の一週間の仕事です

「恋人よこれが私の一週間の仕事です」と声高らかに言い放つロシア女。ところが、
彼女がこの一週間で外出したのは日曜日と木曜のみ。一体この女はニートなのか、
引きこもりなのか。2chあたりでは、これら無職の人々が自らを「自宅警備員」とか
「お通じ製造機」と自虐するようだけど、きっとこの女も一味なのかも知れない。

主人公が引きこもりだとしても、小学生の私が一番に疑問だったのは、月曜にわざ
わざ焚いたお風呂をそのまま放置プレイで火曜に入るあたり、ロシア人のすることは
図りがたしと思っていた。そして年を重ねた今、私の心には2つの選択肢が浮かび
上がる。

1つ目は、結局お風呂になんか入らない、というもの。以前イギリスの学校にいた頃、
ヨーロッパ中の学生と生活を共にした経験がある。ホテルとは名ばかりの寮のような
建物には、フロアごとに複数の大きなバスルームがあった。

他のヨーロッパの学生はあまりお風呂に入らないので、夜になると決まって日本人
学生の間でお風呂の取り合い合戦が起こっていた。そんなある日、私が無駄に広い
バスルームの鍵をあけて廊下に出るとロシア人の友人に出くわす。身長190cmは
あろうかという長身、ブロンドに青い瞳をもつこのイケメンは外交官のドラ息子。
その彼が私に向かって、

 「どうしたの?クリスマスでもないのに」

この一言を一瞬にして理解した私には背景があった。
夏になると口の悪いスペイン人の間で「ロシアン・パフューム(ロシアの香水)」と
いう陰口が囁かれるようになる。彼らロシア人は臭いのだ。・゚・(ノД`)・゚・。
ご存じのように10代のロシア人は男女の別なく本当に美しい。ただ、その体臭を
除いては。先ほどのイケメンは、ロシアの入浴は年に1度のクリスマスイベントに
匹敵するものだということを無意識に白状したのね。

潔癖症の日本人には発狂ものの世界だけど、それでも彼らはなぜか汚らしく見え
ないのが不思議。しかも夏以外はそんなに匂わない。
きっとこの「一週間」の彼女も(糸巻きするから女よね)一応お風呂を焚いては
みたものの、面倒になって入らず次の日に焚きなおしのパターンとみた。この歌の中
でも、入浴は週一のイベントのようだし。

2つ目は、先ほどの通り、もしこの女が引きこもりであるとすれば、彼らの「昼夜
逆転」生活で、生活のリズムが崩れまくっているのではないかということ。

寝ころんだ体勢のまま部屋の電気を消すためにエクステされたヒモやリモコン、
ポテチの袋まで、すべてベッドから手の届く範囲に放置れた汚部屋の中で、ジャージ
姿の太ったロシア女がのろのろと立ち上がる姿が見える。

それまで手にしていたBLをポトリと床に落とした腐女子が、脂で動かなくなった髪を
ボリボリと掻きむしりながら、面倒臭そうにお風呂の栓をつめる情景。それは月曜
夜の11時50分にお風呂を焚いて、実際に入浴をしたのが夜中過ぎ。

こうして日またぎをすることで、月曜に焚いたお風呂に火曜入浴というトリックが
完成することになる。ただ、糸巻きをするような時代のロシアで、重労働であろう風呂
焚きを、こんな夜遅くに腐女子が始めるだろうかと。

この流れでいけば水曜に訪れてくる友人は、当然デブな腐女子仲間である。そこから
糸と麻の謎も解ける。デブ症(出不精)の彼女が、日曜日にわざわざ無理をおして
外出したのは、来るべきコスプレイベントで初音ミクになるため、服飾の材料を日暮里
まで買いにいったのだ。

ただ体型が体型なだけに、仕入れた生地は通常の人の2~3倍にもなり、予想以上の
出費がニートの財布を直撃。予算オーバーへの不満が爆発して会話が長引いてしまった。
さらに、そのイベントでいかに自分たちが人目を浴び、どのようにヲタク男を虜にするか
といった妄想に浸ること数時間。結局、友達は水曜の夜は泊まることになり、翌日の夜に
送るはめになる。

ここで更に生活のリズムが狂い、前日デブ子と盛り上がったコスプレの準備も忘れて
爆睡。結局、金曜日も「糸巻き」をすることなく過ごす。そして、翌日の土曜日に再び
汚部屋を訪れたデブ子に愚痴をこぼして、また一週間が無駄に終わってしまったと嘆く歌。

締めくくりで「これが私の一週間の仕事です」と呼びかけている恋人は、当然、架空の
存在で、この腐女子の脳内彼氏。周囲の人々のこれ以上の追及を避けるため、
「テュリャ テュリャ テュリャ...」と意味不明のラップでお茶を濁して歌が終わる。



<<スイス民謡「おおブレネリ」>>

おおブレネリ あなたのおうちはどこ
わたしのおうちはスイッツランドよ
きれいな湖水のほとりなのよ

冒頭の「おお!」は一体何に驚いているのだろう?ブレネリという名前を知っているなら、
お互い既知の間柄のはずなのに、なぜいちいち「おお!」と驚いているのかしら。しかも、
なぜ「おうち」などという幼児語を使うのだろう。

普通、おうちはどこ、と聞かれたら「そこの角を曲がって3件目のマンションです」など
と答える。ちょっとしたご近所の主婦的な会話を想像していた私は、ブレネリの答えに
度肝を抜かれた。

「わたしのおうちはスイッツランドよ」って、なぜか国籍を答えるブルネリ。予想以上に
インターナショナルな展開に小学生の私は戸惑っていた。ブレネリは今、故郷を後にして
外国にいる。そして、知人らしき人から国籍を聞かれているのだ。しかも、続けざまに
「きれいな湖水のほとりなのよ」などと、聞かれもしないのに自分語りを始め、薄く
自慢話まで盛っている。

続く2番では、

 おおブレネリ あなたの仕事はなに
 わたしの仕事は羊飼いよ
 おおかみ出るのよこわいのよ

知人らしき人がまた「おお!」と驚きながら、さらにたたみかける。

 「あなたの仕事はなに?」

結局この知人は、ブレネリのことを何も知らないのだ。
ブレネリの職業は「羊飼い」。その後、また聞かれもしないのに「おおかみ出るのよ
こわいのよ」などと、勝手に自分語りを付け足している。

なんら脈絡のない一連の歌詞を理解する鍵は、1番と2番の間に入る掛け声。先ほどの
ロシア民謡の「テュリャ テュリャ テュリャ...」部分に匹敵するラップである。

それまで普通に会話をしていたブルネリが「きれいな湖水のほとりなのよ」
「おおかみ出るのよこわいのよ」と自分語りをする度に、突如として興奮が抑えられ
なくなり、叫び続けるフレーズ。

 ヤッホ ホトゥラララヤッホ ホトゥラララヤッホ ホトゥラララヤッホホトゥ
 ラララヤッホ ホトゥラララヤッホ ホトゥラララヤッホ ホトゥラララヤッホホ


そう、彼女は電波系の人なのだ。春先になると交差点の真ん中で愛を叫んだり、
ネラネラと電車の中を練り歩いたりするバブーンな人たち (*ちなみに私は電波、ヲタ、
引きこもり、その他一切に何の偏見もありません。すべて自分の一部だと思っていますw)。


話題を戻すと、真相はこうなる。

親の目を盗んで国外に逃れたブルネリは今、彼女の様子がおかしいことに気づいた
善意の人々に囲まれて、一体どこからきたのか、何をしているのかと聞かれている。

冒頭の「おお!」は、正気の沙汰とは思えないブルネリの挙動に恐れおののく人々の
恐怖の感嘆符。体は大人でも放送コードにひっかかるから「おうち」などという幼児語で
話しかけてあげている。

周囲の心配をよそに電波を受け続ける彼女は、湖がきれいとかおおかみがこわいのよ、
などと一向にらちがあかない。最初は冷静に対応できていても、そこは電波系のこと、
ふるさとの話題になるとつい感情が抑えなくなり、とうとうハイピッチな声で「ヤッホ
ホトゥラララ」とやらかして、周囲の人を恐怖のどん底に陥れる。

ひとしきり興奮がおさまった彼女に、今度は職業を聞く人々。彼らに対して「羊飼い」で
あると告げたブルネリは、また興奮がぶり返し、気がふれたように歌いだす。

この後、手足を押さえつけられ、拘束帯を着せられたブレネリは、お迎えの車に乗せられ
て高原のサナトリウムへ。移送の最中も彼女の歌声は鳴り止むことはなく、スイスの
澄んだ山々にブルネリのラップがこだまする。



つまり小学生の私は、ロシアの腐女子やスイスの電波女の歌を無邪気に歌わされていたと
いうことなのかしら。この他にも、食肉加工場に連れて行かれる子牛の運命を歌った
「ドナドナ」や、なぜか猿が自己紹介する「アイアイ」など、あえて歌にしなければなら
ない理由が見当たらない歌の数々が、今も私の記憶から離れない。


東浪見にて
駅の階段を駆け下りる。乗り継ぎ電車の発車時刻が迫っていた。
そんな私の行く手を阻む一人のギャル。金髪にキャミソールにピンヒール。
そして何より膝上20センチシルバーメタリックの超ミニスカートが
まぶしい。どうやらケータイでメールをチェックしているらしい。

自転車や車に乗りながら、駅の改札やホームのそこかしこでお構いなしの
ケータイチェック。冷蔵庫に入って写メをさらし無職になったりと、
ちょっとあんたらたるんでないかい。ババア根性丸出しでギャルを
追い越そうかな、と思っていると、彼女がケータイを落とした。

一段下に落ちたケータイを見つめていた彼女は、なんとそのままの体勢で
スクワット、手を伸ばして拾おうとしている。完璧なM字開脚だ。下から
見上げれば、パンツ丸出しのあられもない姿に違いない。うわぁ、と思って
見ていると、思いのほかかたい股関節のせいで右足がグラグラしている。
危ない!と思うや否や、シルク・ド・ソレイユのようにゴロゴロと階段を
転げ落ちていった。

階下では、犬神家のスケキヨのように、今度はV字開脚になった彼女の
姿が。パンツはおろかお腹までたくし上がったスカート。横にいた
中学生男子達が、遠巻きに「おおっ、ヤベー」とか言っている。一体、
パンツが見えたからどうだというのだろう。私はこういう萌えポイントが
本当にわからない。男子達よ、普通は彼女の怪我の方を心配するものだ。

急いで駆け寄り助け起こそうと彼女の腕をつかんだ私は、えっ、と思う。
思いのほか腕がマッチョ。大丈夫ですか、と聞くと、

「すみませ〜ん、ぼんやりしちゃってぇ」

声が、太い.......。オネエマンだわ。

話す度に、喉仏がグリグリしながら、頭皮を回してヅラを直している。
すると先程の中学男子達が、オェッなどと言っているのが聞こえた。

勝手に女と勘違いしてパンツまで見ておいて、ぬか喜びさせられたとでも
思っているのかしら。中学男子よ、現実はいつも厳しいのだ。

化粧ポーチから飛び出た男性用のシェーバーを黙って拾う彼女を見て
いたら、なんだかとても可哀想になって中学男子にビームを発射。

頭を下げて去って行くオネエマンを見送りながら、電車の乗り換えに
走る私。安房鴨川行きの電車に飛び乗ると、東浪見のビーチに座り、今、
iPadでこのブログを書いている。

実は先週もここに来た。

先日、多国籍軍を理由に断ったサーフィンの同行。その後、フランス人
の子分から、僕一人なので来てくれませんかと誘われた。仕方なくまた
2週続けてビーチに座っている。

昨日までの酷暑とはうって変わって、海風が心地良い。御宿と違い、
サーファーしかいないこの浜辺はのんびりするのに丁度いいかも知れない。

遠距離恋愛の彼女が東京に出てくるというので、子分のお守りも今日が
最後になりそう。

でも彼の荷物管理役のお陰で、私一人では絶対にくることのなかった「真夏の
ビーチ」を訪れることができた。フランス人の子分にはお礼を言わないと
いけない。ちなみにこのビーチの地名は「東浪見(トラミ)」と読む。
ドラえもんの妹みたいでしょ。

寄せては砕ける波の音を聞きながら、夏の終わりを感じている。

風が心地良い......




おがまれる
私は、街を歩いていてよく人に声をかけられる。

勿論、タレントやモデルスカウトのようなハイソなお誘いや、フェロモンウッフンな
風俗のキャッチなどではない。残念ながら、もっぱらあの世へのお誘いである。
脳内のお花畑がダダ漏れているためか、私に対する宗教勧誘のハードルが低すぎて
困ってしまう。

その昔、テレビで某教団の女性幹部を見た時、その地味さ加減に驚いた。選挙活動で
ゾウさんの着ぐるみと踊っていた彼女らの目は、とうの昔に逝ってしまっている。
髪はボーボー、眉毛ナシ、お肌荒れ荒れ、目の周りに青タン、すっぴんに白装束を
まとった年齢性別不詳びとの舞に度肝をぬかれたものだった。

他にも、宇宙から電磁波攻撃を受けている教団や、定説おやじにシャクティーパット
されていた女性達も同様のたたずまい。皆一様に没個性でありながら、その共通項として
瞳の奥に言い知れぬ狂気を秘めていた。

宗教にはまる女たちが放つ独特のオーラ。もしや私は、世間的にああいうイメージを
放っているのかしらと思うと切ない。

 「有名な航空機事故を知っていますか」

突然街角で何よと思いつつ、無視ができない私の性。つい興味本位で話を聞いて
しまう。振り向けば、大きなカバンをたすき掛けにして紙袋をもった男性が
立っている。羨ましいほどに痩せた体は断面図で10センチほどの薄さ。アマゾンの
インディオ風なヘアースタイルが印象的だった。まさにカブトムシの幼虫とか食べて
いそうな雰囲気。

この彼が言うには、大惨事の墜落事故で命をとりとめた数名が、彼のお祈りを受けて
いたとのこと。凄い威力だ。他力本願に生きる私は現世利益が大好き。しかもお祈りと
言えば就活の「お祈りメール」ぐらいしか経験がない。これは是非おがんでもらおう。

 「すみません、ちょっと恥ずかしいのであの陰でお願いします」

おずおずとインディオと共に路地に入る私は我ながら怪しい。そしてお祈りが始まり、
私の汚れた血を浄化してもらう。そして何も変わらない。

 「これで大丈夫!これからありがたいお話を少し...」

ありがたいのは結構です、というが早いか、人ごみの中を走り抜ける。初対面の
人間捕まえて血が汚れているとか大きなお世話。

またある時は、オレンジの袈裟をまとい、歌って踊れる宗教集団に巻き込まれる。
これは勧誘でも何でもなく、ただ巻き込まれたのだ。

その日、たまたま新宿の紀伊国屋前を横切ろうとしていた私。太鼓の音に
振り向くと、すでにそこには踊り狂うスキンヘッドの男たちが。行進する集団の
中に紛れ込んだ私は、何とかこの踊りの渦から出ようともがく。そして、悪代官
に帯を解かれるイモ娘のように回りながら、太鼓につまづいて転がる私。

道に倒れて涙目で遠くを見つめる私の目に、他人のフリをしながら写メをとる
友人のうすら笑いがかすむ。

この他にも、ひと手間かけた占いで勧誘されたことがある。

その日、友人との食事を終えて駅に向かう私の目に「占い」の文字が飛び込んだ。
最近自分に降りかかったトラブルが走馬灯のように心をよぎる。ちょっと占って
もらおうかな、という軽い気持ちで占いのおじさんに声をかけた。

 「見料はいくらですか」

ボッタクリはいやなのでまず確認。一律3,000円なら相場だ、と思い早速
手の平を差し出した。するとおじさんが開口一番、

 「えーっ、あなたの人生はめちゃめちゃですよっ!」

天からシャキーンと落ちてきた20メートルの大刀が、目の前の大地にまっすぐ
突き刺さり、にわかにかき曇った空からその刀めがけて稲妻の閃光が走る。
天地創造のような地響きとともに私の心は揺れた。

 「今、いろいろお悩みですな、人生の岐路にお立ちのようだ」

いろいろお悩みで人生の岐路に立った人が占ってもらいにくるのだ、普通。
ただ、この時は普段の冷静さをすっかり失ってしまっていた。

 「どうすれば、いいんですか」

すがるような小声でおずおずとつぶやく私。するとこの「みのもんた」風味の
占い師が身を乗り出してきた。「あのですね」と小声でもったいぶったように
ささやく。その口からはかつて嗅いだことのない強烈な腐敗臭を発射。

どうやら私には、生霊、地縛霊、ご近所の浮遊霊その他もろもろのよくない霊が
山盛りに乗り移っているとのこと。あまりの量に、すぐにでも除霊しなければ
危ないですよ、と慌てた様子。手相って乗り移った霊の種類がわかるのね。

勿論、そんなにたかっているのは嫌だ。すぐにでも祓っていただかないと。
みのもんたが言うには、これだけの大集団になると彼の力では太刀打ちできま
せん、と絶望的な一撃。「あなた、よくここまで生きてこれましたね」などと
変な褒め方をされる。

これだけの魑魅魍魎をつけていても普通に生きて来られたのは、何を隠そう
私に化け物以上の力があるからとのこと(ちょっと...)。何はともあれ、
その大先生を訪ねるようにと連絡先を渡された。

その夜は家に戻っても恐ろしくて眠れない。昨日までは同じ部屋にいても
何もなかったものを、その晩は、自分に乗り移っている仲間たちとの添い寝が
いやで一晩中おきていた。

次の朝一番でこの大先生のところに行くと、白装束のハンプティーダンプティー
が出てきた。見るからにうさん臭い。

 「おおっ」

私を見るなり、のけぞる彼。こいつはアカンやつや、と、すかさず私を続きの
間に案内する大先生。

ザンバラの落ち武者髪、しかし毛先はきれいに切りそろえられた斬新なヘア
スタイル。充血した目、イボイボとシミで荒れたお肌に、抜け落ちた前歯の
数々。こうした傷は、過去に戦ってきた幾多の怨霊たちにやられたのかしら、
と、これまでの彼の苦闘を思いやる。ただ、ここまでビジュアル的に神聖味に
かけるエクソシスト(祈祷師)は説得力にかけてよ、と思ったりする。

それでは、と、後ろ手に襖をあけるや祝詞を始める。突然始まる祝詞は
妙に耳に残るリズムで心地よい。大昔のコメディアン、トニー谷がソロバンを
振り回して歌う「あなたのお名前なんてぇの」みたいな響き。

この祝詞を聞きながら、ああ、また騙されたのねと心がつぶやく。
きっとこの後お金をとられるのだわと思いながら、どんどん冷静さを取り戻す
自分がいた。もしかしたら祝詞が効いて、この瞬間に地縛霊たちがとれたの
かも知れない。

目に見えない世界に畏怖の念をもつことにやぶさかではない。
たとえ途上国で子供が飢え、神の名の下にテロリストが殺人を犯す世界に
あっても、きっとどこかに神様はいるのだと信じたい私。

ただ、お金もうけやイデオロギー、政治や占いの利用など、人の心の弱みに
付けこむ人たちの心に神様が宿ることは、絶対にないと思う。


もののけの話
夏にちなんで怪談を一つ。この世の中に科学で証明できないものはない、
という方は、本日のブログを飛ばして下さい。

私は10代の頃から色々なものが見えたり、聞こえたりの体験が10年以上続いた
ため、ある日もう不思議な世界に意識を向けない生活をしようと決心。以後は、
たまにひどくリアルな正夢を見る程度で、ろくでもないものを見ることも
聞くこともなくなった。

そんな私が会社で遭遇した「この世のもの」ではない人のお話。

それは当初、私が一人で残業をしている時にのみ現れた。同僚が他に一人でも残って
いると絶対に姿を現さないため、他の人を怖がらせない様、誰にも話していなかった。

一人PCに向かって翻訳チェックをしていると、物音一つしないオフィスの中でラップ
音が始まる。至る所でパッチンパッチンと弾ける音がすると、部屋の中を急に一陣の風が
吹き抜けていく。すると、ササササと衣擦れの音を伴って何かが部屋に入ってくる。
身長1.5メートルほどの白い服を来た女性だ。

壁に貼られたカレンダーをパラパラとめくったり、私の机の周りを高速で走りぬけたり
と気ぜわしい。最初の間は久しぶりの体験に恐怖を感じ、なるべく気にかけないよう
にしていた。しかししばらくすると、ただのかまって欲しい人だと分かり、どんどん
ウザくなってくる。

散々部屋をグルグルと回った挙句、またカレンダーをパラパラし始め、ついに壁から
カレンダーを落としてしまった。さすがに仕事に集中できなくなり、

「ああ、うるさいっ!」

と、怒鳴りつける私。それ以降、その人はピッタリと現れなくなった。

その後しばらくして、某携帯電話メーカーの英語カタログの納期が迫ったため、デザイナー
の同僚と共に再び残業になった。このデザイナーはまれに見るあまのじゃくで、人が右と
言えば絶対に左という性格。仕事はできるものの、周囲の人間はことごとく手を焼いていた。

彼女は気が強そうだから話してみようかな、と思った私は、残業が一通り終わってお茶を
飲みながら話を切り出した。

 「私、もう帰ろうと思うんだけど、デザイナーちゃんはどうする?」
 「データのバックアップとるからもう少しいるよ」

そこでこれまで私が一人で体験してきた怪談を聞かせて、どう思うか反応を聞いてみた。

 「そんなのは気のせいよ。私、今まで見たことないし」

疲れた私の幻覚や幻聴で、そもそも幽霊などというものはこの世の中にいないと言い放つ。
思った通りの返答をつまらなく感じた私は、

 「じゃ先に帰るね。最後に一つ、もしいないと思うなら、その人にあいさつしてごらん」
 「どうすればいいの」
 「こんばんはって言えば」

荷物をまとめてドアを出ようとする私の背後で、デザイナーが一言、

 「こんばんは」

すると、部屋の隅から誰かが走り抜ける足音とともに、デザイナーのMacの後ろで「バーン」
という音がした。部屋履きを履く間もなく椅子から転げ落ちたデザイナーが叫んでいる。

 「ちょっと待ってぇ、あたしも一緒に帰る!」

あのビルでは、白い女の人以外にも体験している。それはやはり残業時、外付けの非常
階段を登ってくる子供の話し声と足音。私には兄妹と思える子供2人が、下駄ばきで何かを
話しながら階段を駆け上がってくる。その足音はどんどんと近づき、私のフロアの一つ
下まで上がってきた時に、「ああ、この人達は危険だ」という直観が走る。恐ろしく
なった私は、慌てて同僚達のいる部屋に駆け込んだ。そしてそれ以降、彼らには遭遇
していない。

こういう話、皆さんはどう思いますか?



夜明け前
夜のとばりを突き破り
魂を切り裂く激しい懺悔の想い

星々を巡り歩き、生まれ変わり死に変わりの運命の輪と
変遷の彼方

きっともう大丈夫
そう何度も言い聞かせては、繰り返し後戻りをする
魂の軌跡

一点に集中する鋭利な自己憐憫が、すべての静寂を打ち砕き
そして独りよがりの孤独にもどる

過去に引き戻され、未来を夢見る人間に
今、この時を生きる資格などない

夜明け前が一番暗い
今を生きて、じっと動かないこと

自分だけは、自分を嫌いにならないこと

そんな想いを信じれば
いつの日か神の手からこぼれおちるアドリアネの糸に触れ
辛苦の記憶は純化されていく

歓喜と祝福

ガラスの森に延びる一筋の光
細く、しかし確実につながる金色の道の上に立ち
大いなる普遍への回帰にうち震える

明けない夜はない

曙光を信じて

今を生きて、今を生きて...

夜明け前が、一番暗い




梅子の電話
会社のランチタイム。皆で林真理子の「野心のすすめ」について話していると、
同僚の梅子が口火を切った。

 「ユーミンたら、以前、林真理子に "あんた、だんだん松本清張に似てきたわね" って
  いったらしいわよ」

アンチ林真理子でユーミンファンの梅子は、このコメントに溜飲の下がる思いだった様子。
でもさすがにこれはひどい。松本清張のくちびる...

少しだけ林真理子が可愛そうになった私は、梅子に向かって一言。

 「パンスト顔のユーミンは、本名が金玉子よ」

梅子の眉毛が段違い平行棒になった。「5時に夢中!」の岩井志麻子バリの下ネタに
自分でも辟易とする私。これは有名な「柏原芳恵さん空港バイブ事件」と同じくらい
信憑性のない都市伝説で、今もネットでまことしやかに語られている。何の悪気もなく、
ただユーミンに私なりのお灸をすえたかった。すると、尚も梅子が食い下がる。

 「たぶん本当は佐藤玉子だったのに、金さんの後妻に入った母の連れ子として、
  仕方なく養女に入ったのよ。きっとそれで金玉子になったんだわ。もともと金姓で、
  生まれた女子にあえて玉子なんてしょっぱ過ぎる。最後の選択だわ」

ここでランチタイムにもかかわらず、梅子に電話の取り次ぎが入った。「あたしは
死にましたっていってぇ~っ」と駆けていく彼女の後ろ姿を生ぬるく見送りながら、
「梅子の電話シリーズ」を思い出した。

私の会社は、翻訳以外にも外国人のナレーターを扱っている。企業紹介の映像
やテレビコマーシャルで流れる外国語のキャッチフレーズには、日本の声優さん
同様、プロの外国人ネイティブナレーターがいる。

映像制作会社や広告代理店からリクエストがあれば、こちらからボイスサンプルと
顔写真を送り、イメージにあった外国人ナレーターを選んでもらう。ギャラを
決めたり、レコーディングの日取りを調整したり、スタジオで彼らの通訳を
したりといった、一種、マネージャー的なことにも対応している。

登録されたナレーターは英語だけではない。中国語(北京語、広東語)を
始めとするアジア言語からヨーロッパ言語、また、男性、女性の別まで、多数の
ナレーターを登録している。

ある日、某菓子メーカーの企業紹介ビデオ用に、アメリカ英語の女性ナレーター
の連絡が入った。手が離せなかった私は、英語の上手な梅子にナレーターの
スケジュール確認を頼んだ。二つ返事で梅子が電話をかけている。

遠目に眺めていると、受話器を耳から外すや思いっ切り電話を切る梅子の姿が
見える。そしてそのままクルリとこちらを向くと、私に向かって突進してきた。

 「あんたやばいわよ!」

電話をかけたアメリカ人ナレーターの留守電が正気の沙汰ではないので、すぐに
私もかけてみろという。そんな暇がないから頼んだんでしょ、と受話器をもつ私。

 「Hello, this is Catherine speaking, may I help you?」

本人が出た。スケジュール確認をして電話を切ると、横でうさん臭そうな顔をした
梅子がつぶやいた。

 「さっきはのび太がでたわ」
 「・・・・」

梅子の一言に周囲は大爆笑。実はこのナレーター、キャラクターボイスといって、
日本でいうアニメ声優もやっている。英語版のび太君は彼女が吹き替えを
していることを知っているのはこの私だけ。恐らく留守電で「僕、のび太です」
ぐらいやらかしていることは容易に想像がついた。でも、あえて梅子には言わな
かった私。サングラス姿の私を「秘密クラブのマダム」呼ばわりしたお返しだ。

そして、後日。
何やら電話をかけていた梅子が、またぶっつりと電話を切っている。お客様に失礼だ。
その足で私の所にデデデと走ってくると、

 「あんたやばいわよ!」
 「今度は何よ」
 「愛があれば大丈夫だって」
 「・・・・」

さすがに何だか分からない。先方にこう言われた梅子は、すかさず
「担当者が別になるので、ウォーリックあてにかけ直していただけますか」と言って
電話を切ったらしい。何でも宗教っぽくて不気味だから、私に担当を変わって
くれと言う。また不気味担当かいっ!

トゥルルルル、トゥルルルル・・・・
梅子が瞬時に電話をとるや、お待ちください、と言って私に目くばせをする。
梅子のテンションが船橋のゆるキャラふなっしーみたいになっていて怖い。

 「はい、お電話変わりました。担当のウォーリックと申します」
 「ありがとうございます。愛があれば大丈夫です」
 「・・・・」

しばらく話を聞いていると、担当者の名前が出てきて、ようやくこれが会社名で
あることに気づく。社名を言うのにちょっとした気恥ずかしさがともなう感じが
素敵。いずれにしても創業者の想いが伝わるいい社名だと思う。

この会社については後日談がある。私と梅子が緊急の仕事で深夜残業をしていると、
某有名広告代理店の担当者が梅子に電話をかけてきた。電話を切るなり梅子が
ブチ切れている。

 「あいつったら "今、新宿のキャバクラにいるんだけど、進捗はどう?" だって」
 「また?」
 「あとね、愛があれば大丈夫、はつぶれたらしいわよ。今、ヤツが言ってた」

この担当者がキャバクラから電話をかけてくるのはいつものことでも、あんなに素敵
な社名の会社がつぶれてしまったのはショックだった。

愛があってもダメだったのね。

Copyright © 阿鼻叫喚 (あびきょうかん). all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。